二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

クロさんスギさん

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
クロさんスギさん

 王子と同室の籤を椿は二夜連続で引いた。部屋割りは王子と椿、2人きりだ。

「さすがボクの犬だねバッキー」
 その日のメニューが終わり、部屋に戻るとベッドに腰掛けた王子が優しげにふふっと笑っていうものだから、椿は赤くなりながらも期待でパッと顔を輝かせた。
 今夜はベッドで、ちゃんと部屋で眠れるんだ、と。
「バッキー、シャワーを浴びておいでよ。今日は特別。さあ早く。待っているからね!」
 明るい声音で王子が言うので、椿は大きく返事をしてシャワーに駆け込み、戻ってくると王子から布団を示された。あれ?と思った。
「ボクがピローケースを代えておいてあげたよ。シーツは自分でね。フフ、君はボクの一番元気な犬だもの。たまには労ってあげないとね」
 あれれ?と思った。
 だが、気がつくと椿は廊下で布団を敷いていた。 
 まだ消灯には間があったので、部屋の前を通り過ぎるチームメイトから「なんて運のない」「王子ほんとにヒデーなオイ」「俺も初日が廊下だったー」と同情の言葉を掛けられた。早寝の椿には落ち着かない。
 部屋の中では王子はもう眠っているが、黙って隣のベッドに潜りこもうなどは椿には思いもつかなかったのでまんじりともしないまま目を閉じて瞼に廊下の照明を感じながら消灯を待っていた。

 けれどもふっと雲が過ぎるように明かりが陰った。
「どしたの?」 
 椿が瞬きしながら目を開けると、まるで水溜りのなかを覗き込むように杉江が椿へ身を屈ませていた。手には水色の棒アイスが握られている。
 杉江の背後では黒田が「またジーノかよ」とスポーツドリンクのペットボトルを一口呷り終わると、部屋の扉を連打した。「おいこらジーノ!入れてやれ!」
 杉江が黒田へ向いて「ジーノもう寝てるよ」とシャリとアイスを噛みながら言って、椿も思わずコクコクと頭を縦に振った。
「どうせ起きないからやめろよクロ」
「ッかー!合宿なのにおかしいだろ!まだ日があるんだぞ!ジーノの奴がコシさんと同じ部屋になったらどうするよ、コシさんを廊下で寝させるわけにはいかねえだろ!だから今のうちにあいつもちゃんと男と寝るのに慣れさせておかなきゃいけねえんだよ!だいたい椿!」
「ウ、ウッス!!」
「お前も男ならてこでも動くな!きっちり持ち場を守れ!ジーノの野郎をふんじばっても一緒に寝ろ!」
「無理だろ」
 布団の上で固まった椿の代わりに杉江が言った。黒田はそこでぴたりと止まり、口をへの字に曲げて目を泳がせて黙考したあと、頷いた。
「ん。まーそうだな」
 お前にゃ無理だな椿。と屈んで、黒田は椿の肩を叩いた。
 わかってるなら無茶苦茶言わないでほしい…と椿は心の中でだけ涙ぐんだ。
「俺平気っス…」
「よっし、俺らの部屋来い!お前一人ぐらいなんとかなる!」
 椿の口からヒとエとヘが混ざったなんともいえない声が出た。
 黒田はペットボトルを握った右拳の指の背を左の掌でパンと打ち鳴らして決意の気合を勝手に入れた。椿は震え上がった。杉江は椿からはおよそ掴めない無表情で黒田を見つめている。
「いいな、スギ」
 杉江さんにしか今の黒田さんは止められません。なんとか上手く言って欲しい、お願いです杉江さん…!と椿は縋るような思いで杉江を見た。
 怖い先輩である黒田の親切はうれしいけれど、怖いので、ビビリの椿と揶揄される身としてはこのまま廊下で寝ていた方がいっそ安眠できそうな気がしたのだ。
 けれど杉江の答えはあっさりしていた。
「うん、そうしようか」
「よっしゃ、椿、布団運ぶぞ」
 
 そして椿は押し流されるまま、黒田と杉江の部屋に布団ごと邪魔することになった。
 
「おっし、じゃあ椿、お前そっちのベッド使え。俺はスギのところで寝る」
 黒田がてきぱきと椿の布団をベッドに放った。杉江は椿に、はい、とさっき買ってきた棒のアイスを袋から出して渡す。
 2人でコンビニへ買出しに行っていたのだ。杉江の気に入りの水色のアイスはソーダ味だった。
「ウッス、ありがとうございます!」
 俺もこれ好きです、とそこまでは言葉続かず、椿は頭を下げた。
 すると、杉江がなんとはなしに聞いてきた。
「椿もこれ好き?」
「あ、はい…!」
「俺も。寝る前に毎日食べてる」
「え!?毎日…!?」
「うん」
「ったくよー堺さんに知られたらすげえ顔されそうだろ?ここ来るとこいつ毎晩コンビニまで走るんだぜ」
「クロだって買うじゃん」
「俺のは、まあ、ついでだ。せっかくだからな」
 黒田が胸の前で両腕を組んで顎をあげると、杉江はアイスの先でクロを指す。
「さっき赤崎とコンビニで会ったんだけど、クロの好きなアイスと赤崎の買いたいのが一緒だったんだ。最後の一個。半分に割れるやつのコーヒー味。だから半分に分けたらって言ったんだけど」
「分けられるか!」
「赤崎もそう言うんだよね。ふたりでどっちが買うか勝負するっていうから見てたらさ」
「くっそう…!」
「ドリさんがレジに持ってちゃったんだ」
「いくらドリさんでもやっていいことと悪いことがあるはずだ!」
「それ赤崎も言ってたな」
「…ッぐっ」
 黒田の手の中のペットボトルが握りつぶされ、椿の顔色は青くなった。だが黒田はそんなことには意に介さず、椿の手元へ「おい垂れてるぞ、さっさと食え。アイスは冷たいうちしか美味くねえ」と鋭く視線を投げた。
 慌てて齧って、冷たいものを急に食べたときの特有の眉間の痛みに顔をしかめる。すると杉江がははっと笑った。
「キーンってしてる?」
「は、はい…してます」
「俺も」
 すると黒田が声を上げて笑った。「よしよし、もっとキーンとしろ!俺の分までな!」ひどい言い様だったが、黒田の笑いは明るくて楽しげだった。椿にはいつも表情が掴めない杉江も目を細めて笑顔を見せている。
 椿もいつのまにか小さくだったがつられて笑った。怖くて苦手な先輩だったが、今はほんの少し忘れていられた。


「じゃあ椿は俺のベッドな。スギ、ちょっと詰めてくれ」
「うん」
「あ、クロさんスギさん、今日はありがとうございました」
「廊下じゃ寝れねーもんな、礼にはおよばねえよ。あの監督じゃあ明日も何があるかわかんねえからゆっくり休んどけ」
「もうすぐ消灯だ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい!」




 
 明かりは消えた。
 椿は暗闇の中で目を瞑る。
 いつもは近寄りがたかった先輩が、少し近くなった気がする。うれしい。
 でもまだまだだ。
(だって、きっとザキさんならツッコむと思うんだ)


 椿は布団持参なのだが、なぜそれをベッドに敷いてまでして、黒田と杉江が同じベッドで窮屈に寝る必要があるのか。


(俺の布団、床に敷いても同じだったよな…言えばよかったのかな…それに…)

 うつらうつらと椿は昨日からの疲れもあいまって眠りに引き込まれたが、もう一つの疑問は、翌日、赤崎が部屋割りを決めるくじ引きの結果発表後に容赦なく代弁してくれた。

「なんで黒田さんと杉江さんまた一緒の部屋なんスか?おかしいッスよね」

「知らねーよ。俺たちが聞きたい。別に俺はスギと同じでも構わねえけど」
「俺も」
「すげえおかしいッスよ、くじ引いてるのに毎日同じだなんて確率から言ったら…」
作品名:クロさんスギさん 作家名:bon