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水道管盗難事件

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遅い朝を迎えてプロイセンはベッドから起き上がった。モスクワにあるロシアの家だ。いらないと言っているのに、一応ね、と勝手に用意されているプロイセンの部屋。ヴェストの家にある部屋一つで充分だ、と言いたい所だが、あちこちに居場所がある事自体は悪い事じゃない。
 窓から差し込む太陽の位置から考えて、おそらくみんなとっくに動きだしている時間だ。俺の分の朝食はとっておいてくれてあるんだろうか。

「くそ、ロシアの野郎っ」

 着替えて廊下に出ると、プロイセンはぴしりと背筋を伸ばす。部屋を貰えるのは有難いが、合鍵をロシアも持っているのは大問題だ。昨夜ロシアがプロイセンの部屋を訪れたせいで眠いわ体が痛いわ体調はすこぶる悪い。多分奴に悪気は無いんだと思う。ただちょっと他人に気を使えないだけだ。なんだそれって最悪じゃねぇか。
 とはいえ、誰も起こしに来なかったのは、寝ていて構わないというロシアなりの心使いだろう。有難いような、だったらもうちょっと丁寧に扱えというような。起こさないよう静かに出て行ったんだろうロシアを思えば多少は許せるような気がする。
 夏のモスクワはそれなりに暑い。太陽の光を浴びて来ようと庭へ出ると、プロイセンは妙なものに気付いた。庭の中で一番日当たりのいい、ロシアが時々座って花を眺めている場所だ。夏の明るい陽射しを受けて、一際明るい花が咲いている。もしかしたら今朝辺り、ロシアがここに立ち寄ったのかも知れない。

 そこに置かれているものは、一本の水道管。

 何がそんなにロシアのお気に召したのか知らないが、毎日奴が持ち歩いているせいで毎日のように目にする事になっているそれを、見間違えるとは思えない。だいたい、勝手にロシアが持っていっただけでそもそもはうちのものだ。今さら返されても困るだけだからどうでもいいが。
 プロイセンは地面に置きっぱなしになっている水道管に近づくと、それを拾い上げた。自分の家の庭にあったものだとは思うが、もう既にロシアのものとしか思えない。楽しげに振り回すロシアとセットで印象に残ってしまっているせいだろう。金属だからかロシアの持ち物だからか、触ると冷やりとした。あんなに大切にしていたのにどうしてこんな所に置いていくんだ。
 どうしようかと考えて、プロイセンはとりあえず水道管を振ってみる事にした。風を切って素早く振り下ろす。よし、いい感じだ。
 水の出ない水道管なんてつまり鈍器だ。その上ロシアの愛用品。変な呪いとか込められてねぇだろうな。
 地面に放られているのはちょっと切ないので、一応回収しておこう。ロシアと会った時に渡せばいい。
 そう思ってプロイセンは水道管を自分の部屋に持って帰る。どうせロシアは仕事中だろう。夜にまた会った時に渡せばいいと壁に立てかける。
 もう一度水道管を手にとってしまったのはほんの出来心だ。プロイセンが部屋の中で移動した時に、隅に置かれている鏡に自分の姿が映った。その後ろに、壁に立てかけられた水道管も映る。それを見てプロイセンは思わず笑った。部屋の中に水道管ってなんだこのおかしい絵。
 そう思ってひゅんと水道管を振る。なんだか強くなったような気がするぜ。

「俺様なんでも似合っちまって困るぜ!」

 水道管を構えてポーズをとってみると、案外悪くない。何度か構えを変えていい感じの構図を見つけると俄然テンションが上がる。カッコいいじゃねぇか、ロシアより余程キマってる。
 よし、ロシアを探すぞ。と、プロイセンは水道管を握りしめると再び廊下に飛び出した。
 ロシアにプロイセン君カッコいい! って言わせてやるぜ。





「ようやく見つけたぜ!」
 あちこち探し回って、結局一番簡単な所にいたロシアにプロイセンは駆け寄る。太陽が高くなる時間まで寝ていた自分が言えたものじゃないが、ロシアの奴、誰も入って来ないのをいいことに仕事をサボって自分の部屋で昼寝をしていやがった。書類のインクの後がほっぺに付いてやがる。
 だらしない奴だな、とロシアの上着を引っ張る。それで頬をごしごしと擦ってやると、もぞもぞとロシアが腕を動かした。どうやら昼寝の邪魔をする相手を追い払おうとしてるらしい。
「寝ぼけてねぇで起きやがれ」
「……プロイセン君?」
 はたくように伸ばされた手を逆に掴んで引っ張る。さすがにおかしいと思ったらしく目を覚ましてぼんやりとこちらを見上げたロシアを、プロイセンは思い切り睨みつけてやった。俺様を邪険にするなんて失礼じゃねぇか。
 けれどロシアはプロイセンを見上げて、ふっと視線を別の方向に逸らしてしまう。プロイセンのロシアを掴んでいるのとは逆の腕。

「それ!」

 そして驚いたようにプロイセンの腕に握られている水道管を指さした。なんだ、やっぱり探してたのか。なら部屋にしばらく置いていないでとっとと持ってきてやれば良かった。
「プロイセン君が持ってったの? 僕それすっごく探してたのに!」
「は? 人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ」
「だってどこにも無かったんだよ?」
 そんな事言われても、探し方が悪かったんだろとしか言いようがない。
「庭に落ちてたんだっつーの」
「家の中も外も探したよ、勿論庭もね」
 だがロシアが庭に気付く前に先にプロイセンが見つけてしまい、部屋に持ち帰ってしまったせいで擦れ違ってしまったのだろう。それは悪かったな、とは思う。ロシアが大事にしているものだと知っていたのに。
 探し疲れて寝ちゃったけど、と付けくわえたロシアに同情するべきかどうかはともかくとして、申し訳ない事をしたのは確かなようだ。

「けど実際庭に……」
「言い訳なんて聞きたくない」
「いや、耳を塞ぐな。首を振るな。俺の話を聞けロシア!!」

 ロシアが水道管を握って横から奪おうとする。そもそもはロシアのもの……いやそもそもは弟のものだがもうこの際ロシアのものでいい、ともかくロシアの水道管なのだから、返す事には問題は無い。けどこう勝手な勘違いで責めてきた上に無理やり取ろうってのは気に入らない。
 ひょいとロシアを避けてプロイセンは一歩後ろに下がった。勿論水道管ごと。

「何それ。僕に喧嘩売ってるのプロイセン君?」
「あぁ? てめぇが先に売ってきたんだろ。俺様の事コソ泥呼ばわりしやがって」

 早速手に入れたばかりの水道管を役立てる時が来たようだ。こちらの手にはロシアお気に入りの凶悪な鈍器、対するロシアは寝起きの上に素手。いくら力で負けていたってこの条件下なら勝負は見えている。つーかまじで俺が水道管なんぞ横取りしたと思ってるのか。馬鹿じゃねぇのかこいつ。
「なんで俺がお前の水道管なんて取らなきゃならねえんだよ」
「だって僕だったら欲しいよ」
 ん、どういう意味だ。意味が分からずプロイセンはロシアの言葉を問い返す。
「何が欲しいんだ?」
「君がいつも身につけてるもの。君どんなに止めても結局ドイツくんちに帰っちゃうし。ここだって君のうちなのに」
作品名:水道管盗難事件 作家名:真昼