水道管盗難事件
え、あぁ。そういう事か。おいでおいでとしつこくロシアからは電話が来るし、行けばいつでも歓迎してくれるし、プロイセンとしては特に何の不満も持っていなかったが、ロシア側から見ればそうでも無いのかも知れない。碌に連絡も寄越さずふらっと来たかと思えば弟が心配するからとそう長居もせずに帰ってしまう始末じゃ、いくら神経の太いロシアといえども不安にもなるのかも知れない。
「……悪かったよ」
つい絆されてプロイセンはロシアに近づいた。拗ねた顔をしたロシアを宥めるように頬にキスをすると、面倒なガキは嬉しそうに笑った。普段我儘言いたい放題なくせして、妙な所で遠慮しがやって。
もしくは、不安に思っているという事に自分でも気付いていないのかも知れないなとプロイセンは思う。何かプロイセンの持っているものが欲しいと言ったロシアが、自分の言葉の理由を分かっているのかどうかはちょっと怪しい。だって欲しいものは欲しい、で完結して、どうして欲しいと思ったのかその理由にまで考えが及ばない。
つくづくめんどくさいが、彼と近しい関係になってしまった以上それを察して抱きしめてやるのも務めってものだろう。そう思っているとロシアの方から頬へのキスが返ってきた。
「分かればいいよ」
プロイセンの体を抱き寄せてロシアが嬉しそうに笑う。全くしょうがない奴だ。
ってちょっと待て。つまり水道管を俺が持っている理由を、俺がロシアの大事なものを欲しがったと受け取られたって事じゃねぇか。
「だったらいいじゃねぇか、水道管の一本くらいケチらず寄越せよ」
ロシアの言い分に釈然としないものを感じて絆されかけていた気持ちにストップがかかる。プロイセンは露骨に眉を顰めてやった。
「僕はいいけど君はダメ」
けれどロシアがあっさりそんな事を言う。この野郎、てめぇはどこまでもロシアだな。
「それとも僕にお仕置きされたかったのかな、プロイセン君」
「勝手な事言ってんじゃねぇよ!」
ロシアに腕を引かれて視界がくるりと変わる。ぱたりとシーツの上に押し倒されて、プロイセンは噛みつくように怒鳴った。つい昨夜、つーか今朝散々ヤったばっかりじゃねぇか。どっから出てくんだよその元気。
腕を抑えられて、水道管がロシアの手に戻る。組み敷かれた体勢で水道管を持たれにこりと笑われるといやに凶悪だ。
「だから俺は拾っ……」
拾っただけだ! ともう一度きちんと主張しようと思ったのに、ロシアのキスに遮られる。重なった唇から舌が入ってきて、口内を好き勝手に触れて行く。いっそ噛みついてやろうかと思ったが、後が怖いからやめておいた。
「……っ、…ん、」
ロシアのキスは上手いという訳じゃないと思うが、一生懸命だ。技術的な事はこっちも充分に門外漢なのでなんとも言えないが、それとは関係なく、心地いいと思う。それをずっと受けていると、プロイセンの体から抵抗する気力が抜けてしまう。
プロイセンがロシアのものを欲しがると思ったという事は、自分が彼に惚れている事を彼はきちんと認識しているんだろう。妙な所でちっとも分かって無いくせに、肝心な事はきちんと理解してやがる。
「……無粋なもんいつまでも持ってんじゃねぇよ」
手に持ったままの水道管を視線で示すと、ロシアが少し迷って結局シーツの上にそれを放った。開いた両手でプロイセンの服のボタンを外しに掛かる。優先順位はこっちが上だ。なんとなくそれに満足してプロイセンはにっと笑う。
いいぜ、来いよ。相手してやるぜ、ロシア。