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オージーボカン 風雲ハリウッドヒルズ

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「こんな展開にする脚本は即断る…!」

 大音響のエンジン音の中でトビーが芝生に突っ伏しながら怒鳴った。上に覆いかぶさったレオが「聞こえない!」と負けじと叫び、何を言っているのかわかってもトビーの耳にもレオの声は聞こえなかった。

 耳鳴りが残る中で、2台のオープンカーがトビーの家の芝の上に同時にバウンドした。二人の目の前に映るのは、シルバーのアルファロメオとビンテージなピンクキャデラックのグラマラスな後姿だ。
 空間を裂くように突然現れた2台の車を見て芝の上に折り重なったまま、レオとトビーは口を開けて絶句する。
 その前で2台のオープンカーはそのまま左右対象に半円を描くようにカーブし、ヘッドを突き合わせる形で停車した。
 アルファロメオには2人、キャデラックには前に2人、後部座席に1人が乗っている。全員男だ。レオとトビーより皆年上に見える。お互いに意外なところで出くわしたらしい。反応はそれぞれだったが、全員がそういう顔をしていた。




「出たな、英国」
 アルファロメオのハンドルを握る短髪のストロベリーブロンドがキャデラックに向かって目を険しく光らせる。
「邪魔しないでくれ。ヒューから奪った『ウルヴァリン』のクリスタルも返してもらう」
 その隣、助手席に座っていた黒髪の男はストロベリーブロンドとは打って変わった折り目正しい感じの良さで言い添えた。
「まだ撮影があるんです。お願いします」
 

 キャデラックが軽く2回、クラクションを短く鳴らした。
 運転席の男が、祝砲だと言った声はイングリッシュアクセントだった。
「続編か。それは喜ばしい」
「下心が透けてるぞ、ルパート」  
 キャデラックの助手席にいた、かっちりと黒いスーツに身を包んでいるどこまでも英国紳士と言った風体の男が手元のナビに目を落としながらそう指摘すると、ルパートと呼ばれた運転席の男は両腕をハンドルにもたれながら、スーツの男の方に横顔を向けた。
「君の下着の線も透けてくれたらなおうれしいよ、コリン」
「お前らね、俺が絶妙なユーモアで切り込む隙を残しておけよ。少しでいいから」
 心底げんなりしているといった顔で垂れ目の男が後部座席から身を乗り出して肩をすくめると、ルパートと呼ばれた男はアルファロメオの2人に笑顔で垂れ目を指差すとこう言った。
「こっちのヒューと君のヒューをトレードしてくれるなら『ウルヴァリン』返してもいいよ」
 アルファロメオのストロベリーブロンドが即座に叫んだ。
「断る!」
「デイジー…」
「ま、まあ、お前は貴重な戦力だし…」   
 非常に感激した様子の黒髪の男に抱き寄せられて、すがりついてくるその腕をデイジーは困ったようにぽんぽんと叩くと、キャデラックのクラクションが渋滞の原因にブーイングするぞんざいさで大きく無遠慮に鳴らされた。
「今のは邪魔した」
「ルパート!勝手に俺のこと売ろうとしただろ!」
「トレードしたら意味が無いことに向うのヒューも気付くべきじゃないか?」
「さあ、わざと感激する手かも」
 デイジーに覆いかぶさっていたヒューの背中がギクリと身震いした。無表情でデイジーはヒューの腕をつねる指先に力をこめると、ヒューは仕方なさそうにデイジーを離して、助手席に背中を預けた。
「ごめんね、デイジー」
 悪びれない笑顔を輝かせるヒューを睨んでから、デイジーはキャデラックの連中に咳払いした。
「邪魔しないでもらおうか」
「クラクション?」
「…ダイナモンゲだ!」






 レオとトビーは芝生に伏せたまま、腕と脚を使って突然現れた男達に見つからないよう横へ横へと移動した。
 レオが声を潜めた。
「ジャンキーには見えないけど、たぶんああいうのが一番ヤバイ」
「だいたい単語がわかんないよ」
 クリスタル?ダイナモンゲ?
 それはどうでもいいけど、うちの芝生をよくも車で荒らしたな!と静かに怒れるトビーは「出てけ」と叫んでやりたかった。
 こんな時、もし、自分の手からあの強力な蜘蛛の糸が出たら、両手であの車ごと引っ掴んでポーンとここから放り出してやるのに。
 いやいや、僕ときたらこんな時に非現実的な…。役作りのクセが悪いところに出るもんだな、と考えたその時、トビーの体が突如として透明な赤い光に包まれた。
 暗闇の中に潜んでいる時にサーチライトを当てられたかのようなショックでトビーが驚くと、さらにレオも同じく赤い光に包まれていた。
「レオ、なんか胸の辺りから光ってるよ!」
「お前もだよ!うわ~なんだこれ!あと三分経ったら宇宙に帰りそう、俺たち!」
 こんな時にわけわかんないお前って幼なじみながら嫌いじゃないけどちょっとイヤだ、と小突きかけたトビーはアルファロメオから黒髪の男がこちらににこやかに手を振りながら走ってくるのに気がついた。
 背の高い男だ。この時代に白いパンタロンなんて衣装めいたものをはいている。脚が長い。
 すこぶる感じの良い声だった。
「こんにちは。ちょっと話を聞いていただけませんか?」
 トビーは条件反射で即座に答えた。
「募金とサインはお断りします」


  




「反応あり。総数2。クオリティは…いい純度だ。主演クラスだな」
 アクターズクリスタルのナビゲーションシステムがはじき出した計測結果をコリンが分析すると、後部座席から身を乗り出してるヒューがつまらなそうに車の外を指し示した。
「あそこに転がってるのがそうだろ」
「向うのヒューが車を降りたよ。こちらも交渉に行ってくれ」
「俺が行くとヒューヒューまぎらわしいんだろ」
「“ハイ”グラントとでも名乗ればいいさ」
「あ~嫌味言われても言う事聞いてやる俺、展開の都合」
 キャデラックの後部座席のドアを投げやりに閉めると、ヒューはポケットに手を突っ込み歩き出した。
 




 デイジーは通信でロクスを呼び出した。
「やあデイジー。アクターズクリスタルの位置かい?」
「いや、目の前にいたからヒューが見つけてくれた。交渉に行ってる。それよりここはどこか教えてほしいんだ」
「ビバリーヒルズだよ。石を投げれば俳優に当たる。たくさんのクリスタルが反応するんじゃないか?ん?今はたった二つか。でもいい輝きだ」
 手にした者に思いのままの毛を約束するダイナモンゲ。それを手に入れるためにはアクターズクリスタルが多く必要だ。
 それは役者としての精華。
 普段は見えない、とある特殊な状況でしか発現しない物質だ。改造されてしまったデイジー所有のアルファロメオ(はっきり言って泣きそうになった。デイジーは愛車を猫かわいがりしていた)、それか敵のキャデラックが特殊な磁場を辺りに発生させて、俳優のクリスタルを反応させ、そしてクリスタルバキュームガンで俳優の体からクリスタルを吸い込むのだ。
 俳優は役柄の分だけクリスタルを持っている。発現するクリスタルは一度に1つ。ランダムだ。クリスタルを抜かれたら、もうその役柄は元のように演じることはできない。