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オージーボカン 風雲ハリウッドヒルズ

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 ヒューの『ウルヴァリン』のクリスタルがひょんなことから英国側に奪われてしまった今、クリスタル集めと『ウルヴァリン』を取り戻すことがヒューとデイジー、そして本部ナビにロクスを巻き込んだオージーズの目的なのだった。
 そしてデイジーが見つけたクリスタルの交渉にヒューひとりを行かせたのは、車を降りたら自分の衣装がばれるからだった。
 魔法の白いスカートは「古代ギリシャのアレみたいなもの」と言い聞かせても、所詮ミニスカートに見えた。これをはいていないとクリスタルが掴めないし、見えないのだ。
 敵は普通の格好なのにずるい、とデイジーは思った。この脚本には穴がありすぎる。いきあたりばったりだ。
「ロクス、また英国の奴らに邪魔されてるんだ。あいつら一体何者なんだ?」
「うむ。今はまだ彼らの乱れきった関係しか掴めてないなあ」
「み、乱れきった…!?」
 なんでそんなことがわかるのに正体がわからないのか。
 モニタの向こうでロクスは肩をすくめて笑顔を見せた。
「聞きたい?」
「いいよ、いらない」
「そうか」
 ロクスは頷いてデイジーの肩の後ろに目線を投げると、口笛を吹くような気軽さで続けた。
「残念だな」
 画像が一本の線を引いて掻き消えた。
 右肩の後ろから伸ばされた腕の主の声が耳元で囁く。
「本当に残念だ。聞いてみたかったのに」
 いつの間にか愛車の後部座席に乗り込んだルパートにデイジーは心の中で憤慨したが、表情一つ変えずに短く言った。 
「降りろ」
「いい車だ。このバックシートなんて最高」
「…俺からクリスタルは取れない」
「どうかな?『ウルヴァリン』も取れたんだ。君にも期待している。何が出るか…『ファラミア』よりは『ルーク』が好みだ」
 デイジーの左のこめかみに銃口がぴたりと張り付いた。クリスタルバキュームガンが。 






 ピンセットで腕の毛掴んで抜かれたみたいな、と説明されてレオとトビーは揃ってうさんくさげな顔をした。
「その銃に撃たれてそれだけしか痛くないって?まあ、マテル製のおもちゃみたいに見えるけど」
「おれが前に撃たれた時はそんな感じだったんだ。保証するよ」
 にこやかに微笑みながら、ヒューは見せたクリスタルバキュームガンを腰のホルダーに戻して、芝に座っている2人に手を差し伸べた。
「お願いだ。君たち2人の力が必要なんだ」
 まるで宇宙パトロールのお兄さんに頼りにされる主人公の少年のような気分にさせられたレオとトビーは釈然としないながらも、悪い気持ちはしなかった。
 レオは照れたように頬を指で掻いて
「じゃあ、オレの、いいかな~…なんて」
「え!」
「本当かい?レオ君?」
「ああ、あんたの助けになってもいいよ」
 ヒューは感激を顔に湛えて、芝生に座っていたレオを抱きよせて立ち上がらせた。
「ありがとう!」
「レオ!ちょっと待った!考え直せって!」  
「笑顔がまぶしいアクション系に悪い奴はいないってマットの奴も言ってたし…」
「それはのろけられただけだ!マットの瞳の中にだけ存在するベンのことだよ!」
 レオは肝心なところでお人好しすぎる。人一倍欲張りでもあるくせに気前よく大事なものを人にやってしまいそうになっているのを幼なじみのトビーは何度も阻止してきたのだ。
「信じられない。こんな得体の知れない話に乗るだなんて」
 はしゃいでるヒューとレオの2人を睨んだトビーの背中に銃口が当てられた。
「賢明な坊やだ。ガードが甘いけどな」
 トビーは自分の体内が打ち抜かれる音を聞いた。
そして初めて、自分の中に確かにあった、その存在を知ったのだった。
輝ける結晶。
その名はアクターズクリスタル。
 レオが振り返った。
 遅いよ馬鹿、とトビーが呟き、芝の上に崩れる。
 その背後に立つ“ハイ”グラントの手に握られた輝く赤いクリスタルの銘は――
「『スパイダーマン』か、上物だ」
 トビーから奪われたクリスタルは陽に透かすように持ち上げられ、見せ付けるように口付けられた。
 勝利者の獲物さながらに。
「トビー!!」
 構わずトビーの元に走ろうとするレオを手で制しながらも、ヒューは激昂した。
「それをすぐ彼に返すんだ!」
「は!君に渡すんじゃなくてか?」
「なに!?」
「アクターズクリスタルを狙っているのは君達も同じだろ?」
「違う!おれとデイジーは皆から無理矢理奪ったりはしない!もう演らないクリスタルだけ…借りる、つもりで」
「そ…っれが矛盾しているんだ!ダイナモンゲの材料になるのに返せないだろ。ペテン師だぞ!」
「奇術師だ」
 ヒューは握った拳を突き出した。ぱっと開いて見せた手の平からハトが弾丸のようにもう一人のヒューへと飛び出す。
 不意打ちにヒュー後ろによろめくと、奇術の仕上げには緑の芝の上にはらはらと花びらが舞い落ちた。
「…キザだな」
 クリスタルバキュームガンを持つ手で顔の前を過ぎった花びらを払いながら呆れて呟いたヒューに、奇術の仕上げとばかりに笑顔でヒューは腕を広げて一礼した。


 この隙を逃さずに、レオは走りこんだ。
 トビーから『スパイダーマン』クリスタルを奪ったヒュー・グラントを突き飛ばし、倒れているトビーを自分の背の後ろに庇う。
 よろけて舌打ちしたヒューだったが、バキュームガンで牽制し、オージーのヒューに踏み出させなかった。
 口惜しそうにオージーのヒューの口元が引き結ばれる。 
「くっ…」
「ヒーローものはセリフが棒読みになりがちなのが欠点だな」
 銃口をオージーのヒューに向けながら、英国のヒューはレオへと目を走らせた。
「動くな。クリスタルを壊されたくないだろ」
 レオが英国のヒューを睨み上げた。
「返せよ、そのクリスタルはこいつのだ」
「それではいはいと返すくらいなら、最初から撃ってない」
 しらっとしてヒューは続けた。
「代わりに自分からいくらでも取ればいい、とか言うんだろ?」
「ああ、俺以上に持ってる奴はそうはいない。撃てよ」
 レオは傲然と言い放ち、自分の胸を親指で指し示した。
 たいした自信だ、とヒューは口の端をにっと吊り上げる。
「もっと可愛げ出さないとアカデミーの票持ってる奴らも君へ素直に入れられないぞ」
「奴らだってあと少しで落ちる!」
「甘いな青年。だが未来のまでは頂けないのが今は残念だ。じゃあ、もらおうか、覚悟はいいか?」
「待てよ!先にトビーのクリスタルを返せ!」
「好青年のキャラはとっくに卒業したんでね…交換すると一言でも俺は言ったかな?」
 レオは奥歯を噛み締めて、一層ヒューを睨みつけた。 
「放送禁止用語で罵ってやる…!」
「いくらでも。その前にクリスタルを頂くさ」
 ヒューは声を上げて笑った。
 あー悪役って、ヴィランって楽しいじゃないか、いいじゃない、俺。と一種の爽快ささえ感じていたが、ふと、あることに気がついた。
 今、ヒューのクリスタルバキュームガンの銃口はオージーのヒューに向けられていて、ヒューがヒューを狙っているという紛らわしい状態にあるのだが、これがレオに向けられたら非常にまずいのではないだろうか。
 標的から外れたカンガルーがひとっ飛びで自分に向かってくる可能性を、英国のヒューはそこで初めて思い当たった。