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歪み、その3。

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「それでお前の下の名前は何だったんだ?」
「ゆづる」
「どう書く?」
「弦を結ぶって、書いて結弦」
「なるほど…」
「どう思った?」
「綺麗な、名だ」
「…ありがとう」
そうして、結弦はにっこりと微笑んだ。

「何だか今日は騒がしいな」
結弦が呟く。
「ああ、あいつらがライブを行うらしいな」
「あいつら…SSSか?」
「正確にはガールズデッドモンスター。通称ガルデモ。ガルデモはSSSの陽動部隊で
時々、ライブを行う。この前みたいにNPCから食券を回収したりしてな」
「詳しいな、副会長」
「敵を知っておくのも重要だろう」
「なるほど」
「という訳で、結弦、今日の仕事だ。学園内に張られているチラシを全て、捨てろ」
「え?これを!?」
結弦は近くにある掲示板を指差す。
掲示板にはガルデモのライブについての詳細が書かれたチラシが無数に張られていた。
「安心しろ、僕も手伝う」
「あ、いいのか?」
「…別行動がよければ、お前に全て任せるが」
「一緒がいい」
「全く…」
僕は呆れた表情で結弦を見つめた。
それに反するように結弦は嬉しそうな顔を僕に見せた。
結弦は丁寧にチラシを剥がしていく。
僕はそのチラシをゴミ箱に捨てた。
「でも、食券を集めるなら、この前みたいにゲリラライブをすればいいのに、
何で、今回はこんな目立つ方法でライブをするんだ?」
「さあな」
「副会長でもわからないのか?」
「流石に判断材料が無ければな」
「初めての行動なんだ…」
「ちょっと!!」
突然、声をかけられる。
振り向くと数人のNPCの男女が僕と結弦を取り囲んでいた。
「どうかしましたか?」
僕はNPC用の笑顔で応対する。
「チラシ剥がさないでよ!!」
「そうだ!!ガルデモは俺たちの唯一の楽しみなんだ!!」
「待って下さい。このチラシは勝手に張られたものなんです。…だから消えろ!」
僕は催眠術を発動させようとした。
その時、視界が暗くなった。
「な、何だ!?」
「あははは、それじゃ!!」
急に視界が明るくなったかと思うと腕を引っ張られる。
視界が元に戻る頃には僕は走っている事に気づいた。
「副会長、今、催眠術を発動させようとしただろ!!」
「ああ、問題が少なくていいだろう」
「あのな…駄目だ、そんな事をしちゃ…」
「言っておくが、話し合いなど時間の無駄だぞ」
「時間の無駄とかそういうのじゃなくて、乱暴すぎるっての!!」
「結弦」
僕が足を止めると、結弦も足を止めた。
僕は結弦の腕を引っ張り、顔を僕の顔に近づけさせた。
「お前は僕のものだ」
「え、あ、あの…いきなり?」
「だから、お前は僕の言う事を聞いていればいいんだ」
「出来ないよ…。副会長が悪い事をしたら、叱ってやらないといけない」
「そうか…」
僕はそっと結弦から離れた。
「え、副会長?」
「僕の言う事を聞かないお前なんて、いらない」
僕は結弦に背を向けた。
「ま、待ってくれ!」
結弦は僕を背後から抱きしめる。
「何だ、愚民。馴れ馴れしいぞ」
「俺は物じゃない。人間なんだ。副会長の言う事全て、受け入れられないけど、
それでも、副会長の事、好きなんだ!」
「…」
「機嫌、直してくれよ」
「では、お前1人で、学園内全てのチラシを剥がせ」
「え…」
「僕の機嫌を直したいのなら、それくらいはしろ」
「わかった」
結弦は少々、げんなりとした表情をしたが、それでも、真面目に頷く。
「僕は部屋に戻る」
「一緒に行ってくれないのか?」
「偶には単独行動をしろ、結弦」
「…そうだな」
結弦は寂しそうにその場を去っていった。
僕は結弦の後姿が見えなくなるまでその場にいた。

学園の地下。
かつんかつんと僕の足音だけが響き渡る。
暗くてよく見えないが、幸い夜目は利くほうだ。
転倒する事無く、その場に辿り着いた。
頑丈な扉。
僕はカードキーを使って開ける。
扉の向こうには。
ベッドと簡易トイレ、手洗い場、小さな通気口があるだけの部屋。
手っ取り早く言えば、反省室という名の牢屋だった。
「あとは天使を失脚させれば…」
僕はぽつりと呟いた。

部屋に戻る。
まだ結弦はいない。
恐らく真面目にチラシを剥がしているのだろう。
どれだけの枚数が張られているかは知らないが、かなりの時間がかかる事は明白だった。
「…」
僕は着替えるとベッドに寝転がる。
枕元に置いてある本をぱらぱらとめくる。
そういえば、結弦がこの世界に訪れてから、あまり本を読んでいない。
それくらい結弦といると退屈はしなかった。
文章を流し見していると、眠気が襲ってきた。
僕はしばし眠りにつく事にした。

「だ、誰だよ…こんなにも貼り付けた奴…」
俺は自動販売機の前で肩を落とす。
まだまだチラシは校内に張られている。
剥がしていくより、張っている奴を見つけて、張らないように注意した方が早いかもしれない。
「と、とりあえず、休憩…」
俺は財布から小銭を出そうとした。
手が震えていたのか、100円玉が1枚、俺の手を滑りぬけて、地面へと落下。
ころころと転がっていった。
「うわっ、待て!」
俺は慌てて、100円玉の後を追いかける。
100円玉は誰かの足に軽く当たり、移動をやめた。
「あ、すみません」
俺はその人に声をかける。
「これ、お前のか?」
100円玉を拾い上げた人物は俺や副会長が着ている制服とは異なる制服を着ていた。
茶色のブレザー。腕には…SSSの紋章。
『もし、平常時に、SSSのメンバーに出会ったら、NPCの振りをしろ』
常々、副会長から言われている。
俺は淡々とした表情を形作った。
「あ、ああ…」
「溝に入らなくてよかったな」
青い髪の、制服をだらしなく着ている青年はじろじろと俺を見る。
まずい、ばれたか!?
「何か?」
「いや、お前…何だか、人間みたいな気がした」
俺は動揺を表情に出さないようにするのが精一杯だった。
人間とばれたら、どうなるのだろうか?
「気のせいか…、人間なら、俺達のメンバーに入っているだろうし」
「…」
「あ、これ」
青年は俺に100円玉を渡す。
「ありがとう…」
「何か飲むのか?」
「コーヒー…」
「Keyコーヒー、美味いもんな」
俺は副会長が淹れてくれるコーヒーの方がよっぽど美味いと思うけれど。
「俺、日向。お前は?」
その男、日向は何故か、俺に名乗り、俺の名前を聞いてきた。
「…音無」
「そうか、音無。ちょっと付き合ってくれないか?」
「え?」
「退屈なんだ。話し相手になって欲しい」
何だ、一体?
もしかして、俺、人間だとばれているのか?
「悪いけど…仕事があるから」
「手伝おうか?」
「1人でやれって言われているから…ごめん!」
俺はその場を走り去った。
ちらりと後ろを見れば、日向は少し寂しそうな表情で自動販売機の前で佇んでいた。

校内にあるチラシを全て剥がした時にはもう校内は夕暮れ、いや、もう夜に近い時間になっていた。
俺はふらふらと俺と副会長の部屋へと戻ってきた。
「ただいま…副会長…あっ」
副会長は寝ていた。
いつもの険しい表情でない、NPCに応対する笑顔とも違う、柔らかな表情を浮かべて。
本当に勿体無い。
可愛いのに。
そういえば、どうして、副会長は男装しているのだろうか。
作品名:歪み、その3。 作家名:mil