歪み、その3。
副会長の女子制服姿…。
俺は想像してみる。
いつも男装している姿を見ているせいか、なかなか想像が形作れなかった。
「想像力が貧困なのか…俺」
でも、この格好でいいのかもしれない。
似合っているし。
結局、どんな格好をしていても、俺は副会長が好きなんだ。
「副会長…」
ぽつりと呟く。
本当は文人って呼びたい。
呼んだら、どんな反応をするだろう。
『文人』
『ほぉ…愚民の癖に呼び捨てとはいい度胸だ…』
『うぎゃーーーー!!』
「…殺されるな…間違いなく」
制服姿は想像できないのに、何故かこういうのは安易に想像できた。
それにしても、副会長は起きない。
チラシに書かれていたガルデモのライブ開始時間は今日の19時からだ。
もうそろそろ始まる。
「副会長〜」
俺は副会長に呼びかける。
下手に体に触れば、即死亡しそうだ。
けれど、副会長の眠りは深いようで、起きなかった。
「副会長、起きないと…キスするぞー」
冗談で言ってみる。
「…ん…」
ぴくんと副会長の体が動いた。
びくんと俺の体が震えた。
「んー、結弦…」
俺を呼ぶ声。
声が…女の子だった…。
「副会長、ごめん…我慢できない…」
俺は副会長に顔を近づける。
ゆっくりと。
壊れないように。
近づいて。
「何をしている」
目を開けると、そこには結弦の顔があった。
「うぁぁぁぁぁ!!」
結弦は僕から離れる。
ついでにベッドから転げ落ちた。
「いでぇぇぇぇ!!」
「全く、お前はケダモノだな。寝ている僕に何しようとしていた?」
げしっ!!
ベッドから出た僕はのた打ち回る結弦の体に蹴りを入れる。
「ごふっ!!」
結弦が咳き込んだ。
「いや、何も…、副会長が起きないから起こそうかと…」
「普通に起こせばいいだろう」
「お、起きなかったから…」
「顔を近づけたと…」
げしっ!!
もう一発、結弦の体に蹴りを入れた。
「がふっ!!」
「さて、ライブが始まるな。結弦、妨害しに行くぞ」
「た、立てない…」
「面倒な奴だな」
「副会長の蹴りが凄すぎるんだって…」
「ほら、手を貸してやるから」
僕は結弦に手を差し伸べる。
結弦はその手を取る。
僕は結弦を起き上がらせようとして、何故か結弦は動かなくて。
バランスが崩れる。
結弦が僕を抱き寄せた。
「ゆ、ゆづ…ん…」
口を塞がれていた。
温かい。
嫌いじゃない感触。
やがて、ゆっくりと離れる。
「副会長、好きだ…」
「お前はそればかりだな…」
「そのくらい好きなんだよ」
「こんなのは、ただの本能に過ぎない」
「寂しい事を言うなよ」
「僕は嬉しくない」
「本当に?」
結弦が僕だけを見つめる。
寂しそうな目で。
「…少しだけ温かい気持ちになる」
僕はそう呟いていた。
「もっとそういう気持ちになってくれ」
そうして、結弦は何度も僕を求めた。
僕はそんな結弦を殴るなりすればいいのに、何故かなすがままだった。
時間が経過しているのに気づいたのは、
どこからか、歌が流れた時だった。
静かなバラードだった。
「結弦…ライブを止めないと…」
「嫌だ…離さない…」
「…」
ぼかっ!!
漸く、僕は結弦を殴った。
「いでぇぇぇぇ!!」
「調子に乗るな、下僕。行くぞ」
僕は制服を着る。
結弦はまだのた打ち回っていた。
「何を遊んでいるんだ?結弦」
「遊んでいないですよ…」
僕と結弦は体育館に向かった。
だが、遅かったと言うべきだろうか。
体育館はボーカルがいなくなったと、大騒ぎをしていて、ライブどころの話ではなくなっていた。
「結局、またSSSの思い通りになったのか?」
僕は晴天の下、屋上で呟く。
ガルデモのボーカルだった岩沢は消滅した。
恐らく、満足し、この世界を去っていったのだろう。
「…」
結弦はぼんやりと何かを考えている。
「どうした、結弦?」
「…いつか、副会長も消えるのか?」
不安げに僕を見つめていた。
「消えない。僕はやるべき事があるからな」
僕はにやりと笑った。
「そうか…」
僕の思惑など知らない結弦は、嬉しそうに笑った。