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「笑えよ、ヴェスト」
 笑えと言われて笑えれば、苦労はしない。
 笑いもせず、呆れたような表情をドイツが浮かべると、プロイセンは楽しそうに声を上げて笑った。
「へったくそだな!」
「……兄さんが笑っていればいいだろう」
「俺だけ笑ったって意味がねえだろ。ほら、俺が笑ったんだ、お前も笑えよ」
 よくわからない理屈をまっすぐに突きつけてくる兄に、ドイツは笑おうとしたが失敗し、結局苦笑交じりの顔になった。
「無理を言わないでくれ。楽しくもないのに、笑えない」
「じゃあ何か楽しいことをしようぜ。それならいいんだろ?」
 プロイセンの手元には、最新型の携帯電話が握られている。近頃ブログに嵌まり、あれこれ写真を撮っているのは知っているが、なにかといえば撮ろうとする兄に、ドイツは戸惑っていた。
 写真に撮られるほど、自分は表情豊かではない。撮ったところで、面白味に欠ける。そもそも、自分の姿を世界に配信するような趣味も持ち合わせていない。
 しかし、プロイセンは盗撮まがいのことをし、勝手にブログにアップしてしまうのだから、本当に性質が悪かった。この間は寝顔を撮られ、その後パソコンにアイスをぶちまけられ、散々説教をしたのだ。
 本人は全く懲りていない。
「とにかく、ブログで遊ぶの構わん。だが、俺の写真は撮るな」
「ちぇー、なんでだよー」
「自分の写真を載せればいいだろう?」
「ん?」
 その時、きょとんとプロイセンは首を傾げた。
「どうした?」
「いや、これはブログにのっけるんじゃねぇよ」
「ではなんなんだ?」
「それはあ」
 プロイセンはにたにたと性格の悪そうな顔をし、立ちっぱなしになっているドイツの手を引き、顔を近づけた。前のめりに引かれた所為で、眼差しがプロイセンの高さと同じになる。薄い唇がにっと笑み、赤い舌が僅かに覗く。
「っ……」
「キスしようぜ、ヴェスト」
「な、んでだ」
「楽しいこと、しようぜ?」
 逆らおうにも、ドイツの体は硬直してしまい、プロイセンを拒めない。わざとらしくゆっくり唇を重ねてくるプロイセンは、柔らかく数度ついばんだ後、喉を鳴らした。
「……いきなり、なにを」
「俺の一番愛してるやつの写真を、ずっと持ち歩きたかったんだよ。ははっ、似合わねーよな、悪い」
作品名:写真 作家名:エ ム