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未来へ繋ぐ

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SIDEキョン
その日俺は悪夢から無事帰還した…
いや、それを悪夢と言ってよかったものか、まだ過去に飛んで未来を正していない俺にとっては悪夢になる予定の出来事か?
まあどっちでもいい。とりあえずはやけに平和で心安らぐ悪夢の世界から解放されたんだ




「やっと解放される…」


俺の中ではつい先ほど、脇腹を刺されて思いっきりお花畑を横切り川を全速力で渡ろうとしていたはずだが、いまやその原因となる腹部の傷なんて全く見当たりはしない。
なにせ俺は階段から転げ落ちたという恥ずかしい奴だからな…
救急車までよんだとなれば学校でも騒ぎになり知名度が上がっているに違いない。
とんだアホだと話題になっていそうだが、俺が目覚めて遭遇したのはやけに穏やかな古泉であり、間抜けな団員に付き添ってくれていた団長様であり、俺を見るなり大きな目を真っ赤にしながらきれいな涙を流してくれた朝比奈さんであってなかなか悪くはない目覚めなのだから近い未来の学校生活などに思いをはせる必要はないだろう。ああ、この瞬間にきれいに忘れた。

まあ、話は逸れたがSOS団の仲間たちから温かい歓迎をひとしきり受け、騒ぎを聞きつけた看護師に見つかって大騒ぎになり、なんやかんやと検査をされ、ようやっと団長様たちも安心して岐路につかれるらしい。

「じゃあキョン!ちゃんと休んでなさいよ!不手際で悪化なんてなったらこの私が許さないから!!」

「キョン君おやすみなさい。ゆっくり休んでくださいね」

朝比奈さんは本当に天使だ…きっとちょっと大きめのコートをめくったら小さな羽根があったりするに違いない…その場合団長様の背中にはやたらきれいな漆黒の羽根がはえていることだろうよ。
いつもならもっと朝比奈さんのご尊顔を拝見していたいところだが、今日の俺にはやらねばならないことがまだ残っている。
それが不本意なことだとしても、だ。

「気をつけて帰れよ」

「では僕もこれで」

いつもと変わらず始終穏やかに騒ぎを見守っていた古泉から何となく感じる違和感が、俺のセンサーにビンビンと反応していた。
別に全く望んだわけではないのだが、無駄に長い時間を共にしているわけではない。
穏やかで優しげに見える優等生の中身が意外にバランスが悪い、下手な子供が高さだけ積み上げた積木みたいなところがあることを誰でもない俺は知っている。
俺の本能は確実にこう告げていた

―またロクでもないこと考えてやがるなこいつ―

俺たちは高校生だぜ?楽しいとき笑って、ムカつけば怒って、まあ、泣くことなんかもなくはない。
なのに、この男はどんな時もわざとらしいほど笑顔で出会ったころがよくいらいらさせられたものだ。
表面上平素に見えても中身は結構ぐらぐらしていることに気づいてからは、それを隠そうと意識せずに隠す奴の態度にまたさらにいらいらするのだが、こればかりはすぐにどうにかなるもんではないし、自覚がない以上誰かが指摘してやらなければならんだろう。
まったくもって不本意だが、同じSOS団でありこの世界の平和を共に担う以上、そのアンバランスさに気付いている俺がそれをできる限りしてやりたいと思うところもあるわけで…ああ、なんだかわけがわからんが、とにかく俺は古泉の嘘臭い笑顔が大嫌いでもう少しマシに笑わせたいと思う。
その俺のセンサーに引っ掛かっている古泉をこのまま帰すわけにはいかないわけだよ。
わかるかね?俺もよくわからん。

「古泉、お前ちょっと残れよ」

「え?あ、はい」

帰り支度を終えていた古泉は怪訝そうな顔をしたが、俺の顔から勝手に何かしの意図を読み取ってくれたらしく、先に部屋の外へ出ていた二人に声をかけて扉を閉めるとVIPルームらしくやたら座り心地のよさそうに椅子に腰かけた。

「どうしたんですか?何か気になることが?」

いつもの何も変わらない穏やかな笑顔だ。だけど、俺にはベッドから手に届かない位置のソファーに座った古泉に実際の距離以上の距離を感じずにはいられなかった。

…そこ、部屋にソファしかないんだから当たり前とか突っ込むなよ?
ことこいつに関しては俺も第6感で相対しているとしかいえん。
こいつの精神状況を解説できる奴なんてよっぽどそいつ自身が歪んだ奴だぜきっと。

またまた話は逸れたが、ソファーに座っている古泉をじっと見てやっぱり俺のセンサーは不信を訴え続けている。
看護師は安静安静とうるさかったが階段から転げ落ちたにしては全く体の痛みなんかないし、今までハルヒ達に見舞われていた俺にはすでに安静なんてあってないようなものだからまあよかろう、と立ち上がって古泉の正面のソファに座る。
―おお、ふかふかじゃねえか

「あの…?」

いつも通りの顔のはずだ。
だけど、近くで見て俺は俺に違和感を与えていたものの正体にようやく気付いた。
人が何よりも雄弁にものを語るはずの目が。

「…お前さ、いつまで俺を化け物を見るみたいな目で見てんだよ」

穏やかな表情の中、微妙に俺から逸れている目線。
まるで俺を通り越した向こうの壁を見ているような遠い目。
少なくとも無事に目を覚ました友人を見るめじゃないだろうが。

そう言った時古泉の顔に浮かんだのは怪訝そうな顔で、これは本当に気付いていないに違いない。

こいつはー古泉は本当に不器用なやつなのだ。


























SIDE古泉

その日僕は、神様に感謝をした。


つい3日前、ほんの一昨日前のことであるのに、まるで永遠の時を過ごしたかの様だった。
僕の―僕たちSOS団がクリスマスに思いを馳せて階段を下りていたときに横をすり抜けていった影。
まるでゴム毬みたいに跳ねたそれは、砂を詰め込んだ袋が地面に叩きつけられたような鈍い音を立てて床に転がっていた。

衝撃
悲鳴

床に転がったそれは見慣れた制服を着ていて、背を向けた恰好で顔はわからなくてもそれが彼であることはわかった。

ああ、どうしたんだろう?

涼宮さんの悲鳴のような声が聞こえて、耳を通り抜けて行ったのに僕の頭はそれを聞き流して…聞き流そうとしていた。

涼宮さんのように彼を心配して声を張り上げることもできず
朝比奈さんのように彼にすがって涙をながすこともできず
長門さんのように冷静に救急車を呼ぶことすらできず
ただ、木偶のように突っ立っているだけで

「キョン!!!キョン!!!!!」

彼の姿を眺めながら、習慣のように顔が笑みの形を造ったままの自分に吐き気がした







「…お前さ、いつまで俺を化け物を見るみたいな目で見てんだよ」

―いやだな、そんなはずないじゃないですか

目覚めてくれて本当に良かった。
だって、彼に何かあったら涼宮さんの精神状態がどうなるかわからない
僕はそのためにここにいるのに、何もできず最悪の状態に陥らせてしまうなんてあってはいけないのに。

「おい」

―だからなんですか?

せっかく目が覚めてあんなに皆さんが喜んだのに、なぜあなたはそんな顔をしているのですか?

「おい!!古泉!!」

―何を…怒って…?

「もどって来いこら!!!!!」


ばちっ!!!!!


「いっ…!何をするんですか!!」
作品名:未来へ繋ぐ 作家名:伊緒