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和(ちか)
和(ちか)
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My home1

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My home Ⅰ



「菊ー、菊ちゃーん」
先程から誰かが玄関のドアをガタガタ揺する音がしている。まぁ誰かなんて言ってもそんなことをする人はそもそも一人しかいない、それは一体誰なのかと言うと私の血の繋がらない兄であるフランシス・ボヌフォアその人である。
こう言ってみると複雑な過程家庭事情のように思われがちだが別にそんなこともなく、単にお互いが再婚した親の連れ子だったと言うだけのことだ。
「はーい?」
彼は小さい頃から恋多き母の影響で寂しい思いをしてきたらしく酒が入ると甘えたがるようになる。例えば、鍵を持っているのに自分でドアを開けずに揺すってみたりとか。初めは自分よりずっと年上の男の人が甘えてくることに驚いたものだが今ではすっかり慣れっこだ。
「開ーけーてー」
「はいはい、おかえりなさい」
「ただいまー!」
ドアを開けた途端に雪崩れ込むようにフランシスさんが入ってきた。重いので体重を掛けて抱きついてくるのは止めてほしいと何度言ってもしてくるのは何故なのか。体格の差の所為か渾身の力を出しているのに、足がガクガクする。
「あぁ、疲れたぁ」
肩にすりすりと顔を擦りつけながら言われる。若干酒臭いが其処まで気になるほどではないので、どうやら二日酔いの心配は無さそうだ。
「お疲れ様でした、ご飯食べてきたんですよね?」
彼はその整った外見の所為で非常にモテる代わりに意に沿わない相手から執拗に迫られることも時々ある。今も店に来るお嬢様に付き纏われ、かと言って大事なお客様を追い払うわけにも行かず参っているらしい。しかも当然だが相手は女性の上、まだ若い。女性に優しいフランシスさんが邪険に出来るはずがないと言うわけだ。
「うん、食べてきちゃった。 ごめんね、1人で食べさせて。
 あー、シャワー浴びたいなぁ」
「えっ! ちょっと危なくないですか?」
「すぐ出るから大丈夫」
「じゃあ鍵は閉めないでくださいね」
はぁいとフランシスさんが子供のような返事をしてバスルームに入って行くのを見届けてからリビングに戻ってソファーに座り、外を眺めながら考える。
この生活は何時まで続くのか、を。フランシスさんももう23歳、同棲をしたい相手ができたり女性を連れてきたいときもあるかもしれない。そんな時、私が家にいたのでは不都合もある筈だ。いつまでも自分がここに居ていいのだろうか。来年の大学進学を機に家を出るべきなのかもしれない。
「そうなったら寂しくなりますね……」
「なにが?」
「えっ!?」
ひょい、といつの間にか上がっていたらしいフランシスさんが後ろから覗き込んできた。
ジーパンだけを穿いて髪を拭く様は宛ら雑誌のモデルのようで、つくづく私とは全く釣り合わない相手だ。そう思うと気分が沈んで溜息を吐いた。
「……いや、そもそもなんで釣り合う必要があるんですか」
「菊ちゃん大丈夫? 疲れてるの?」
「あ、いえ、なんでも……」
「ふぅん」
一応頷くような動作をしたが、フランシスさんはまだこちらを見ている。例えばこの悩みを打ち明けてみたら彼はそんなこと気にしなくていいと言ってくれるに違いない。
でも、それは本当なんだろうか。勿論、この人が私に嘘を言うとは思っていないので、フランシスさん自身にとっては本当に気にしなくても良いことに違いない。それなら、私にとってはどうだろう。フランシスさんの優しさに甘えて気にせず養われていていいのか。
そこまで考えて、目を伏せた。寂しい。折角、温かい家と孤独を分かち合う相手ができたのに。
「菊ちゃん、なんか悩みごと?」
「いえ、ちょっと夜ご飯を食べ過ぎてしまって」
「ならいいけど、あんまり考え込み過ぎないようにね。
 もう今日は寝ちゃったらどう? 明日は久しぶりの休みだし朝から一緒に過ごそうか」
何かに悩んでいるのに気づいているみたいに、優しく頭を撫でられる。仕事で忙しいフランシスさんを煩わせたくなかったのに結局は心配させてしまったようだ。
「そうですね、もう寝ます。 フランシスさんは……?」
「俺はもうちょっと起きてるよ。 お休み、菊ちゃん」
「はい、おやすみなさい」
部屋のドアを開け、中を見回した。この家に越してきてまだたったの2年しか経ってない。
やっぱり、まだもう少しだけここで暮らしても良いんじゃないかな。そう、誤魔化すように呟いた。

 ふと時計を見ると、もう菊ちゃんが部屋に戻ってから2時間が経っていた。
水を飲みながら、酒の回った頭で先程の様子のおかしかった菊ちゃんが今度は何に悩んでいるのかを考えてみる。あの子は歳よりもずっと大人びていて、頭も良い。そして何事に対しても生真面目に考え込む癖があったから。
「今度は何を悩んでるんだか……」
何に悩んでいるのか、心配だし気にもなったが直接聞くことは躊躇われた。きっと聞いたところで気を使って素直に答えてくれないだろうし、そもそも自分が踏み込んでも良い問題なのかすらも分からない。
そして何よりも恐れがあった。父と母が再婚して直ぐの頃のように、自分の不用意な一言であの子を酷く傷つけやしないかと。
「はぁ」
緩いウェーブの掛かった髪を掻き混ぜながら、思考も同じようにぐるぐる回る。その最大の論点は、あの子は自分があの子を大事に思っているのと同じくらい自分を好きでいてくれているのか、と言うことだ。詰まるところ自分には踏み込むだけの自身が足りていないのだ。
例えばあの子が女の子だったら、いや、女の子とまでは行かなくてももう少し人の外見に目を留める性質であったなら。でもそれは考えても仕方のないことだ。そもそもあの子がそんな人間だったら自分はここまであの子を大事に思っていないに違いないのだから。
「菊ちゃん、もう寝たかな」
ちょっと部屋の様子でも見に行こうと身体を沈み込ませていたソファーから立ち上がる。
「菊ちゃーん? 寝てる?」
ノックをしてみるが応答はない。何の気もなくドアノブを回してみると、扉は簡単に開いてしまった。
「お?」
この子は相変わらず無用心だな、と思いながらも鍵が開いていたのを良いことに足音を忍ばせて自分が買った天蓋付きベットに近づいていく。
カーテンの内側で眠る菊ちゃんはまるで穢れを知らないお姫様のようだ。二人を阻む薄い布を捲り上げると、菊ちゃんの肌理細やかな肌が良く見えるようになった。
恐らく閉め忘れたのだろう。開いたままのカーテンから差す月明かりを浴びてオレンジがかったベージュ色の肌が仄かに輝いているのに目を奪われてふらふらと歩み寄り、ベットの傍らに跪く。
「ぅん?」
気配に気づいたのか、菊ちゃんが怪訝そうな顔をして横向きから仰向きになった。
桃色のつやつやした唇のほんの少し開いた隙間から、濃い紅色が覗いている。その狭間から淡い吐息が漏れた瞬間、この唇の感触を知りたいと言う衝動が胸を突いた。
あまりに強い力にふらつくように、でも出来る限り優しく唇を触れ合わせる。そして柔らかい唇を吸ったとき、唐突に自分がこの子に抱いていた感情はもうずっと前から家族ではない欲望を伴う愛に変わってしまっていたんだと気づいてしまった。
「……嘘だろ?」
この感情を一体どうするべきなのかわからない。例え血は繋がっていなくとも、同じ家に住む兄弟にそぐわないこの感情を。

作品名:My home1 作家名:和(ちか)