めり誕①
誕生日くらい顔みせてくれよ、とそれだけの軽口をたたくのに、特別な能力も何もいりはしない。だが、その行為はまるで空をとぶより難しいときがある。黒い、昔ながらの電話の前で、一通り悩んではあきらめて宴の席に帰ろうとすることが何度も繰り返されるうちに、自分は汗だくになっていく。
4度目くらいの往来の途中でアルフレッドは本田にタオルを手渡された。
「悪いね。こう暑いとさすがにまいるよ。」
本田は笑うアルフレッドの顔を心配そうにみて、そしてあきれたように言った。
「電話してみたらどうですか。」
二人は黒い電話の受話器をみつめた。そして本田のほうをゆるやかに振り返ると、『そうそう簡単な問題でもないんだよ。』とかすかに笑う。彼はアーサーの電話番号を知りながらもう何百年ものあいだ、彼に電話をしたことがなかった。
隣の部屋は主賓である自分がいなくてもうまく楽しんでいるようだった。フラシンスにいたっては服を脱ぎださんとしていた。今はもう脱いでいるかもしれない。
「レディーもいるんだから脱がないでくれよ。」
アルフレッドはやれやれ、という風にいって宴をあとにしたのを覚えている。この席でアルフレッドが主役であることをいったいどれだけの国が覚えているだろうか。ふとそんなことを考えて歩いていると、自分が一番目をそらしたかった現実に気づく。
『そうか、まだアーサーだけがここにいないのか。』
電話のベルはならない。招待状は確かに届けられたはずなのに…。
そのせつなさが小一時間という長い時間を受話器の前で過ごさせる要因になっていた。
さすがにばかばかしくなってアルフレッドが式に戻ろうとすると携帯に着信がある。なんてタイミングだろうと思う。しかしアーサーのはずもない。そう思いつつ、少し汗ばんでいる手がとても憎らしく思えた。
**
「おー、アルフレッドじゃないか。」
フラシンスが若干の傷心をともなって宴に戻ったに声をかける。よかった、まだ全裸じゃないんだね、と俺は軽く笑う。フランシスは苦笑いする。落ち着いてきたのかテンションがやや低い。
フランシスはなみなみにつがれたワインを俺に手渡す
「ありがとう」
「いいえ。酔えない奴がいて可哀相だから、ついね。」
フランシスは俺にウインクをかます。俺は非常に微妙な顔で笑う。大人は本当におっかないし勘がいい。
「お手柔らかに頼むよ。」
俺はワインに口をつけた。フランス産のワインの味がして美味しいと素直に感想をいう。
「変に素直になってんのな。それはやっぱり誰かさんがこないから?」
アルフレッドは目を大きく開いてフランシスを見た。フランシスはにやにやして彼の答えをまっている。これはすべてお見通しか。
「…、まあ」
来ないと寂しいし。
アルフレッドはしぶしぶ答える。
この人にはまったく何も隠せないな、と思う。フランシスには嘘をつけないな、と苦笑する。俺はまったくこの大人が大好きなときがある。さびしいという言葉は口から出たとき、ああ、俺はアーサーがいなくてそういう感情をいだいているんだな、とこっそり思う。
フランシスは言う。
「簡単なことなのにうまくいかないんだよな。まぁ、お前はアーサーに対して持ってる感情についてよく考えるチャンスだと思えばいいさ。そうしないとお前は一生電話を手にすることができないんだから。」
まあ、電話待ってるお前は本当いじらしいくてかわいかったけどな。
フランシスは最後にそう言って宴に戻っていった。
アルフレッドは照れたように頭をかいた。
**
4度目くらいの往来の途中でアルフレッドは本田にタオルを手渡された。
「悪いね。こう暑いとさすがにまいるよ。」
本田は笑うアルフレッドの顔を心配そうにみて、そしてあきれたように言った。
「電話してみたらどうですか。」
二人は黒い電話の受話器をみつめた。そして本田のほうをゆるやかに振り返ると、『そうそう簡単な問題でもないんだよ。』とかすかに笑う。彼はアーサーの電話番号を知りながらもう何百年ものあいだ、彼に電話をしたことがなかった。
隣の部屋は主賓である自分がいなくてもうまく楽しんでいるようだった。フラシンスにいたっては服を脱ぎださんとしていた。今はもう脱いでいるかもしれない。
「レディーもいるんだから脱がないでくれよ。」
アルフレッドはやれやれ、という風にいって宴をあとにしたのを覚えている。この席でアルフレッドが主役であることをいったいどれだけの国が覚えているだろうか。ふとそんなことを考えて歩いていると、自分が一番目をそらしたかった現実に気づく。
『そうか、まだアーサーだけがここにいないのか。』
電話のベルはならない。招待状は確かに届けられたはずなのに…。
そのせつなさが小一時間という長い時間を受話器の前で過ごさせる要因になっていた。
さすがにばかばかしくなってアルフレッドが式に戻ろうとすると携帯に着信がある。なんてタイミングだろうと思う。しかしアーサーのはずもない。そう思いつつ、少し汗ばんでいる手がとても憎らしく思えた。
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「おー、アルフレッドじゃないか。」
フラシンスが若干の傷心をともなって宴に戻ったに声をかける。よかった、まだ全裸じゃないんだね、と俺は軽く笑う。フランシスは苦笑いする。落ち着いてきたのかテンションがやや低い。
フランシスはなみなみにつがれたワインを俺に手渡す
「ありがとう」
「いいえ。酔えない奴がいて可哀相だから、ついね。」
フランシスは俺にウインクをかます。俺は非常に微妙な顔で笑う。大人は本当におっかないし勘がいい。
「お手柔らかに頼むよ。」
俺はワインに口をつけた。フランス産のワインの味がして美味しいと素直に感想をいう。
「変に素直になってんのな。それはやっぱり誰かさんがこないから?」
アルフレッドは目を大きく開いてフランシスを見た。フランシスはにやにやして彼の答えをまっている。これはすべてお見通しか。
「…、まあ」
来ないと寂しいし。
アルフレッドはしぶしぶ答える。
この人にはまったく何も隠せないな、と思う。フランシスには嘘をつけないな、と苦笑する。俺はまったくこの大人が大好きなときがある。さびしいという言葉は口から出たとき、ああ、俺はアーサーがいなくてそういう感情をいだいているんだな、とこっそり思う。
フランシスは言う。
「簡単なことなのにうまくいかないんだよな。まぁ、お前はアーサーに対して持ってる感情についてよく考えるチャンスだと思えばいいさ。そうしないとお前は一生電話を手にすることができないんだから。」
まあ、電話待ってるお前は本当いじらしいくてかわいかったけどな。
フランシスは最後にそう言って宴に戻っていった。
アルフレッドは照れたように頭をかいた。
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