秘恋
そういって手を伸ばそうとする透から反射的に身を遠ざけるはとり。
きょとんとした顔をした透。
「今のは・・・・」
すまない。とっさにそう言おうとしたが彼女の言葉に阻まれる。
「すみません。はとりさんはお医者様ですからご自分の体調はよくご存知ですね。
私ったら本当に気がきかないです!」
ぺこりと頭をさげる透。その頭に桜の花びらがあるのをみつけ、おもわずはとりは手をのばした。
「え・・・?」
桜をとるはずだった手が彼女のあたまを、なでる。
「すまない・・・その桜が・・」
「いえ、とてもうれしいです。私、頭をなでてもらえるのは好きです。お母さんもよくなでてくださいましたから。
でも、男の方になでてもらうとちょっと恥ずかしいですね」
「・・・」
なんといっていいのかわからずに、なんとなく見詰め合ってしまう。
すると、何故か透は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「あ・・・あの・・・。」
「?どうした?」
「あの・・・はとりさんは・・・その・・・」
「あぁ」
何かいいかけた透だが、何故か次の言葉を継がず顔を真っ赤にしてうつむき、手をぎゅっとにぎりしめている。
しばらくまったが、何もいわない。何か違う話題でも振るべきだろうかと考えはじめたとき透が顔を上げた。
「あの!はとりさんは・・・・・・・」
「あぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人の間に沈黙が落ちる。
「・・・・そうです!たけのこなどお好きですか?」
「・・・・・・あぁ・・・好きだが・・・・」
だが・・・・彼女はこんなことがききたかったのか?
自分はこんなことがいいたかったのではないのです という思いが目にみえるような彼女の表情にはとりは微笑む。
「きょ・・・今日はですね。たけのこ料理などをしてみようかと思っているのですが、一緒にいかがですか?」
顔を真っ赤にしてこちらを一生懸命に見つめる少女を愛らしいと思う。
「そうだな・・・お邪魔するとしようか・・」
自然に言葉が出た。
いつもなら、わずらわしい紫呉や小うるさい夾のいる家などごめんだがそんなことには考えがいかなかった。
ただ、彼女が・・・・彼女が?
一瞬思考が停止する。彼女がなんだったのだろう・・・?
ただ、彼女が悲しむ顔がみたくなかった?いや、そういうことではなくて、もっと答えは簡単なことだ。
「どうされましたか・・・?」
すでに立ち上がった彼女が不思議そうにこちらをみた。
「いや、なんでもない。」
そう、考えたところで仕方が無い・・・答えは・・・・。
ふと、彼女が手にもった本の題名が目に入った。
薄いピンク色の表紙にかかれた白い文字の題名にいままで気付かなかった。
そこには
秘恋
の文字。悲恋とかけているのだろう。秘められた恋ということか・・・・。
答えは見つかった。
あの男にしてはしゃれた題名をつけたものだ・・・・。
立ち上がったはとりは自然に透の手をとり歩き出す。
「あ、あのそっちじゃ・・・」
「車をこっちに停めている」
「あ、お車でいらしたんですね・・・・。」
すこし後をあるく彼女を振り向くと、彼女は満面の笑みをうかべてすこし小走りになりはとりの隣に並んだ。
「読み終わったらその本をかしてくれないか」
「えぇ!もちろんです。読み終わったらすぐにお届けします!」
秘められた恋。
今は互いに秘めたままの恋。