カテリーナ
13.
『兄さん、姉さん。好きな人ができました。』
妹からの手紙には、そう書かれていた。
弟はその手紙を読んで、安心したように、けれど少しさみしそうに、笑った。
「今度は姉さんの番だよ?」
そう言われ、弟は全てわかっているのだと思った。
「そうね。私も、がんばらなきゃ。」
一人残された弟が、
「やっとみんな、自分の道を歩けるんだね。」
と呟いた言葉は、私の耳には届かなかった。
*
考古学の授業では、いつも彼を避けて座っていた。
あれから彼は、私に話しかけなくなった。
私に気を遣ったのかもしれない。
それとも私に嫌気がさしたのかもしれない。
だとしても。
私には言わなきゃいけない言葉があった。
妹は、彼女の兄を愛していた。
盲目的な愛。
義務ではないかと指摘され、揺らいだ。
それは私にとっても同じこと。
弟を、優先させた。
私は彼の告白を逃げることで回避した。
この気持ちが、愛だとか、恋だとか、なんなのかは、わからない。
けれど、彼の笑顔に。あの、太陽みたいな笑顔に、もう一度、会いたかった。
私は彼の座っている席の隣に座って、言った。
「ねえ、筆箱を忘れちゃったんだけど、何か書くものを貸してくれないかしら?」
彼は私の顔を見るとぱあっと明るくなり、笑った。
「おやすい御用さ!」
彼は私に抱きついた。
彼の腕の中で、私は一粒涙を流した。
ああ、これが恋なのか。
「大好き。」
小さな声で、呟いた。