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カテリーナ

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4.

守ってあげなくちゃ、と思った。
あの時から。ずっと。一緒に居てあげなくちゃ、と。

ポストには、妹からのエアメールが届いていた。
いつも、こういうまめなところには感心してしまう。
けれどかわいい妹の興味は彼女の兄にしかなく、自分のことや、他のことにはこういったまめさは見られない。

今年の春から、弟とロシアに住んでいる。
末っ子の妹を置いていくのは忍びなかったが、学校を変えたりするのは避けたかった。
こちらの学校に通わせるのも大変だったし、妹の進路のことも考えたからだ。
弟は、自分と血が繋がっているとは考えられないほど頭がよかった。
神童と言われ、15の時に飛び級で大学に入学した。
20歳で博士課程を修了し、ロシアで教授として、教鞭をとることになった。
私はと言えば、誰かに自慢することができるものなどなにもなく、取り柄もなく、ただ胸が大きいだけの女だった。
弟と妹を養うために、高校をでて働いた。
頭も悪かったから、スーパーのレジ打ちとか、飲食店の皿洗いしかできなかった。
弟はいつも「僕が姉さんとナターリヤを支えるからね」と毎日遅くまで勉強していた。

亡くなった父は、聡明な人だった。
けれど、その血筋は私には受け継がれなかったようだ。
父は莫大な遺産をあとにこの世を去った。
当時私はまだ11歳だった。4歳の妹と、8歳の弟と、冷たくて暗い世界に放り投げられた。
私と弟を産んだ母親は育児に疲れて、私が9歳の時に自殺した。
――――弟の、目の前で。
弟の脳裏には、血まみれになった母の姿がこびりついてはなれないのだという。
父親の遺産を狙った汚い親戚たちが、私たちをこぞって育てたがった。
中学を卒業したら三人でアパートに暮らし、高校に行きながらアルバイトをした。
親戚には、もう二度と関わりたくなかった。
私は子供のころから、世の中の暗くて汚いものを知ったのだった。

弟は、いつもなにかに怯えていた。
母親の死を目の前で見たという精神的なショックが、いつまでも弟を縛り付けた。
私はあの時から、弟を守ろうと誓った。
いつも弟のそばにいて、支えてあげることしか、私にはできなかったのだ。
弟がロシアに行くと聞いて、すぐに私もロシア行きを決めた。
お金のことはなんとかなる。
妹が一番の心配の種だったが、一人でも変わらず暮らしているようだった。
私は4月から、弟のいる大学に通っている。
この歳で大学1年生というのは少し恥ずかしかったけれど、大学に行くために毎日猛勉強した。再来年には、妹もこの大学に来るだろう、と思っている。
妹も、弟と同じく優秀だった。
やはり父の血は私には受け継がれなかったようだ。

「イヴァンちゃん、ナターリヤちゃんからお返事届いてるわよ」

自室で本を読んでいた弟に、エアメールを渡す。
ありがとう、姉さん。と弟はそれを受け取って開いた。

「なんて書いてあるの?」

わくわくしながら、手紙を覗き込んだ。
私たちを繋ぐのは、1ヵ月に一度来るエアメールだけなのだ。

「ええと・・・『兄さん、姉さん。お久しぶりです。私は今「カラマーゾフの兄弟」を読んでいます。なんだか兄弟が私たちのようでとても面白いです。姉さんは父親を殺したりしないと思うけれど。そういえば学校で、イワンみたいな奴と知り合いました。変で、むかつく奴だけどなぜだか話が合います。そいつは本屋の店員をしているので、カラマーゾフの話もします。とてもむかつく奴ですが、悪い奴ではなさそうです。寒い日が続きますが、二人とも風邪には気をつけて。返信を心から待っています。 ナターリヤより』 だって。」

いつものように何気ないことが、ほんの少しだけ書いてある。
それだけで、元気に暮らしていることがわかって嬉しかった。

「お友達のことを書くなんて初めてじゃない!?」

「そうだね。元気にやってるみたいで安心したよ。」

「カラマーゾフの兄弟」は名前だけ聞いたことがあった。
きっと、ロシア文学を研究している弟のことを思って読んでいるのだろう。
もっと自分や他のことにも目を向ければいいのに、と思っていた。
友達ができたということは、兄以外のものに興味を示しているということだ。
いい傾向なのかもしれない。

「ねえイヴァンちゃん、父親を殺すってどういうこと?」

妹の手紙にあった、「姉さんは父親を殺したりしないと思うけれど」という部分を指して聞いた。なんとも物騒な話である。父は病死だったし、私が手を下したという事実は全くない。

「ああ、カラマーゾフは父親殺しの話だからね。まあナターリヤはまだ最後まで読んでないみたいだから、犯人がわからなくても仕方ないのかもしれないけど。」

「へえ~。私も読んでみようかな!」

弟は当たり前のように内容を知っていて、妹も今読んでいるなら私も読んでみたいと思った。折角ロシアにいるのだから、ロシア文学に触れるのもいいだろう。
弟は壁掛け時計を見て、そろそろかな、と呟いた。

「行きましょうか」

「うん」

次の授業に間に合うように、私たちは家を出た。

作品名:カテリーナ 作家名:ずーか