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カテリーナ

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5.

本田菊と初めて会った日から、1ヵ月が経っていた。
私はカラマーゾフを読み終わり、中巻も無事に書店から取り寄せてもらった。
結末にはなんとなく違和感を覚えたけれど、あれはあれでいい終わりなのかもしれないと思って本を閉じた。
本田とはなぜか馬が合って、よく話をした。
クラスも違うのに、昼休みや放課後はよく会って話をした。
あれから、屋上は寒いから行かないことにした。
というのも、私にブレザーを貸してくれた本田が、そのあと風邪をひいてしまったからだ。
そういうわけで、もっぱら空き教室でたむろしていた。
兄さんと姉さんから、ちょうど中巻を読み終わったときにエアメールが届いた。
その日のうちに返事を書いた。
本田のことも、書いた。
イワンみたいに、論理的で、冷静で、むかつく人間だと。
自分以外の誰かのことを書くのは初めてだった。
兄さんや姉さんは、どう思うのだろう。
私に友達ができたことを、喜んでくれるだろうか。

私と本田は色々なことを話した。
カラマーゾフのことはもちろん、学校のこと、バイトのこと、家族のこと。
私がする兄さんや姉さんの話を本田は黙って、笑って聞いていた。
話し終わるといつも、「ナターリヤさんはお兄さんのことが大好きなんですね」と、少しさみしそうに言った。
ああ、大好きだ。大好きだけど、もう半年以上会ってないんだ。
何度も、北方の広大な大地に想いを馳せた。
会いたい。けれど兄さんは毎日頑張っているんだ。
邪魔をすることなんてできない。
それが自分の我儘だと気づいているから、なおさら。

「それじゃあナターリヤさん、大学はロシアに?」

私たちは、空き教室で勉強をしながら話していた。
私も本田も帰宅部で、本田のバイトがないときはいつも勉強してから帰った。
勉強していれば空き教室に残っていても教師になにか言われることはないからだ。
本田は私以上に頭がよかったから、いつもわからないところを教えてもらっていた。
日が落ちるのは早かった。
授業が終わる時間にはもう暗くなっている。

「行きたいと、思ってる。兄さんが教えてるところだし。もう一度、三人で暮らせたらいいな、って。」

「素敵な夢ですね。」

私の未来に、本田はいなかった。
初めてちゃんとできた友達。
きっとロシアに行ったら会えなくなってしまう。

「会えなくなるかな・・・。」

しょんぼりと言ったら、本田はふふっと笑った。

「嬉しいですね、まだ先のことなのに、そんなに悲しんでくれるなんて。」

こいつの笑顔は好きだけど、苦手だった。
全てを見透かされるような、そんな気がして。

「だ、だって。お前絶対手紙とか送らなさそうだし。」

「失礼ですね。お手紙くらい送りますよ。なんなら会いに行きます。」

私の言葉に本田は拗ねたように頬を膨らませた。
会いに来る?本気で言ってるのか?

「ほ、本当に・・・?」

おずおずと聞くと、本田は満面の笑みで答えた。
逆に嘘っぽいぞ。

「私が嘘を吐く人間に見えますか?」

「ああ、見える。超怪しい。」

本田はいつもにこにこしていて、すごく怪しかった。
何が本当で、何が嘘かわからない。
でも、私はそういう本田が好きだったんだ。
大切な、友達だった。
私の言葉を聞いて、本田はふうと大きな溜息をついた。

「私のこの正直さがわからないなんて・・・なんて嘆かわしい・・・。」

大げさに頭を抱え込む本田の頭を、私は筆入れで叩いた。
なんてむかつくやつだ。

「いたっ!暴力反対ですよナターリヤさん!・・・と、茶番はここまでにして。本気ですよ。ナターリヤさんがロシアに行くなら、何度だって会いに行きます。手紙だって毎週書きます。」

本田の顔はさっきまでとは全然違って、真剣だった。
すうと息を吸う。
目の前にいるこの男が、私の友達でよかったと、心から思った。

「・・・・ありがとう。うれしい。」

なんだか恥ずかしくなって、下を向いて答えた。
本田は今どんな顔をしているのだろう。
いつもの、あの顔で笑っているだろうか。
こほんと、本田の咳払いをする声が聞こえて、頭に手を置かれた。

「よしよし」

「・・・私はペットか。」

余計恥ずかしくなった。
本田のほうを見れないじゃないか。
下校時間を告げるチャイムが鳴って、私たちは教室を後にした。

作品名:カテリーナ 作家名:ずーか