ファイティング・ペロキャン
「なあなあ自分ら、ペロキャン一年分欲しない?」
『オッス、オラヒメコ。オラ、ワクワクしてきたぞ』と顔に書いてあるスケット団の紅一点が、ハガキのような紙束をわしづかみにして部室に飛び込んできた。
「欲しくな……がふっ!」
勢いを殺さぬまま紙束を口に突っ込まれ、ボッスンは涙目になった。危険を察知したスイッチは『だが断』でやめたので、被害を無事回避している。
「あーもう、何もったいないことしてくれとんねん! もっかい持ってきてやり直すさかい、自分らそこに居れよ。逃げたら承知せえへんで」
あわただしく踵を返し、ヒメコが去っていった。
『どうする、ボッスン』
「いいいいやオレはアイツなんか怖くねぇよ!?」
やっとの思いで口から紙を引っぱり出し、ボッスンは瞳をうるませたまま叫んだ。
「でででもああアイツがいて欲しいっていうんだから、がががく学園の生活を支援する部の部長としてはね?」
『部長さん、声震えまくりデスネww』
「そそそんなこと言うならお前が逃げてみろ! オレは止めないどころか、むしろオレも連れてってって言っちゃうからな! 甲子園に連れてって欲しい南ちゃんくらい叫んじゃうからな! 甲子園の中心でタッちゃんを叫んじゃうからな!」
『残念だが、オレはカッちゃんだ。和義だから』
「何をごちゃごちゃ言うとんねん」
ふたたび紙束を持って、ヒメコが現れた。
「見て見て、コレ」
テーブルの上にヒメコが広げたのは、ハガキくらいの大きさの応募用紙だった。
「『ボクの考えたペロリポップキャンディ』、募集してるねんて!」
住所・氏名・年齢などの欄とともに、空白の四角い枠がある。絵で描いて良し、字で説明して良し、とのことだろう。
『ボクの考えたモンスター、的なノリか』
「あの味はまさにモンスターだもんな」
「失礼なこと言うなや! モンスターなのは『モンスター味』だけや」
「あんのかよ!」
「んでな、コレも見て?」
バッグから、ヒメコが募集要項の用紙を取り出す。そこには、「最優秀作品は、商品として発売+オリジナルペロキャン1年分! 優秀作品は、オリジナルペロキャンを半年分プレゼント!」という文字が躍っていた。
「いやがらせか」
ボッスンがげんなりした表情で舌を出したが、ヒメコはかまわず続ける。
「そこでや。お前ら、案出すん手伝え」
「えええー! なんでオレらが!」
「三人寄れば文殊の知恵、言うやろ。それに学園生活支援部なんやから、アタシの学園生活も支援せんかい」
主張するヒメコに、ボッスンは投げやりに手を振った。
「無理無理、オレ、忙しいもん。他の依頼でてんてこ舞っちゃってるもん」
「ウソつけええ! ここ2週間ばかり、依頼人どころか遊びに来るヤツすらおらんやんけ!」
『オレは本当に忙しいがな』
「自分かてパソコンでアニメ見まくっとるだけやろがい!」
ヒメコは怒りで肩をふるわせたが、それでもいまいち反応の鈍い男子2名を見比べ、やがて「仕方あらへんわ」と肩をすくめた。
「ほな採用されたら、オリジナルペロキャン3個ずつ分けたるわ」
「あのー、そんな百歩譲ったような顔されても困るんですけど……」
「ワガママやな。ほんなら出血大サービス、2ヶ月分ずつでどうや!」
血走った目をして、ヒメコは指を2本出す。
「数の問題じゃねーし、つーかいらねーし!」
「何やて!? 全部アタシのものにしてええ言うんか! 太っ腹か!」
『そもそも、協力するとは言っていない』
「うわ、気ィ悪いな! よっしゃ決めた、自分らペロキャンに目覚めさしたるわ。絶対喰わしたる」
「勝手に決めんな!」
3人が言い争っていると、部室のドアが遠慮がちにノックされ、女生徒が「あの、こんにちは」と顔をのぞかせた。
「キャプテン!」
キャプテンこと高橋千秋は、「ごめんね、お取り込み中だったかしら」と戸惑った笑みを浮かべた。
「いいっていいって、こいつがバカなこと言ってただけだからよ!」
ぞんざいに『こいつ』とボッスンに示されたヒメコが、激しく抗議する。
「しばくぞボケカスアホンダラ!」
「本当のことを言ったまでだろ。そうだキャプテン見てやってくれよ、そこのくだらな……」
ボッスンがテーブルを指差す前に、キャプテンが声を上げた。
「あ、これ! そうなの、私の依頼もこのことなの!」
「……くないよね、全然? すごい重要なことだよね?」
内心の焦りを顔にだだ漏らしつつ、ボッスンはすみやかに前言を翻した。
「声裏返っとるがな!」
『そうだよボッスン、すごい重要なことだよね?』
「お前まで声裏返すなや! ゴンセーオウセーソフトやろ!」
ボッスンに同調したスイッチにツッコみ、ヒメコはキャプテンに向き直る。
「キャプテンもオリジナルペロキャン狙とるん?」
「そうなの。というより、私の弟がね。前にも話したと思うんだけど……」
キャプテンの依頼は、もうすぐ誕生日を迎える弟に、大好きなペロキャンのオリジナルの味をプレゼントしたいので、一緒に考えて欲しい、というものだった。
「でも私、どんな味がいいのかわからなくて。弟と同じようにペロキャンが好きなヒメコちゃんや、スケット団のみんなだったら力を貸してくれるかと思ったの」
「やっぱりペロキャン好きに悪い人はおらんなあ。よっしゃ、アタシがひと肌脱いだるわ。ボッスンたちも、引き受けるやろ?」
「ああ、依頼なら仕方ないな」
『これまで見たこともない、オリジナリティあふれるペロキャンを見せてやろう』
「いやいやいや、今までのペロキャンだって充分オリジナリティあふれてるよ? あふれ出してるよ?」
『オレたちの戦いは、これからだ!』
「うん、そういうのやめて? 縁起でもないからやめて?」
熱血少年漫画の登場人物のような顔つきになっているスイッチに、ボッスンはツッコミを入れた。
「なあキャプテン、賞品は山分けでええ?」
「ええ、もちろんよ」
キャプテンも快諾し、話がとんとん拍子にまとまる。
「ボッスンとスイッチにもちゃんと分けたるさかい、心配しなや」
「だからいらねーって!」
『お気遣いなく』
「何言うとんねん。好き嫌いしたらアカンていつも言うとるやろ!」
「やめろよ、このエセおかん!」
ボッスンの抗議に耳を貸すことなく、ヒメコはやる気まんまんにペンを取り、ハガキに向かった。
『オッス、オラヒメコ。オラ、ワクワクしてきたぞ』と顔に書いてあるスケット団の紅一点が、ハガキのような紙束をわしづかみにして部室に飛び込んできた。
「欲しくな……がふっ!」
勢いを殺さぬまま紙束を口に突っ込まれ、ボッスンは涙目になった。危険を察知したスイッチは『だが断』でやめたので、被害を無事回避している。
「あーもう、何もったいないことしてくれとんねん! もっかい持ってきてやり直すさかい、自分らそこに居れよ。逃げたら承知せえへんで」
あわただしく踵を返し、ヒメコが去っていった。
『どうする、ボッスン』
「いいいいやオレはアイツなんか怖くねぇよ!?」
やっとの思いで口から紙を引っぱり出し、ボッスンは瞳をうるませたまま叫んだ。
「でででもああアイツがいて欲しいっていうんだから、がががく学園の生活を支援する部の部長としてはね?」
『部長さん、声震えまくりデスネww』
「そそそんなこと言うならお前が逃げてみろ! オレは止めないどころか、むしろオレも連れてってって言っちゃうからな! 甲子園に連れてって欲しい南ちゃんくらい叫んじゃうからな! 甲子園の中心でタッちゃんを叫んじゃうからな!」
『残念だが、オレはカッちゃんだ。和義だから』
「何をごちゃごちゃ言うとんねん」
ふたたび紙束を持って、ヒメコが現れた。
「見て見て、コレ」
テーブルの上にヒメコが広げたのは、ハガキくらいの大きさの応募用紙だった。
「『ボクの考えたペロリポップキャンディ』、募集してるねんて!」
住所・氏名・年齢などの欄とともに、空白の四角い枠がある。絵で描いて良し、字で説明して良し、とのことだろう。
『ボクの考えたモンスター、的なノリか』
「あの味はまさにモンスターだもんな」
「失礼なこと言うなや! モンスターなのは『モンスター味』だけや」
「あんのかよ!」
「んでな、コレも見て?」
バッグから、ヒメコが募集要項の用紙を取り出す。そこには、「最優秀作品は、商品として発売+オリジナルペロキャン1年分! 優秀作品は、オリジナルペロキャンを半年分プレゼント!」という文字が躍っていた。
「いやがらせか」
ボッスンがげんなりした表情で舌を出したが、ヒメコはかまわず続ける。
「そこでや。お前ら、案出すん手伝え」
「えええー! なんでオレらが!」
「三人寄れば文殊の知恵、言うやろ。それに学園生活支援部なんやから、アタシの学園生活も支援せんかい」
主張するヒメコに、ボッスンは投げやりに手を振った。
「無理無理、オレ、忙しいもん。他の依頼でてんてこ舞っちゃってるもん」
「ウソつけええ! ここ2週間ばかり、依頼人どころか遊びに来るヤツすらおらんやんけ!」
『オレは本当に忙しいがな』
「自分かてパソコンでアニメ見まくっとるだけやろがい!」
ヒメコは怒りで肩をふるわせたが、それでもいまいち反応の鈍い男子2名を見比べ、やがて「仕方あらへんわ」と肩をすくめた。
「ほな採用されたら、オリジナルペロキャン3個ずつ分けたるわ」
「あのー、そんな百歩譲ったような顔されても困るんですけど……」
「ワガママやな。ほんなら出血大サービス、2ヶ月分ずつでどうや!」
血走った目をして、ヒメコは指を2本出す。
「数の問題じゃねーし、つーかいらねーし!」
「何やて!? 全部アタシのものにしてええ言うんか! 太っ腹か!」
『そもそも、協力するとは言っていない』
「うわ、気ィ悪いな! よっしゃ決めた、自分らペロキャンに目覚めさしたるわ。絶対喰わしたる」
「勝手に決めんな!」
3人が言い争っていると、部室のドアが遠慮がちにノックされ、女生徒が「あの、こんにちは」と顔をのぞかせた。
「キャプテン!」
キャプテンこと高橋千秋は、「ごめんね、お取り込み中だったかしら」と戸惑った笑みを浮かべた。
「いいっていいって、こいつがバカなこと言ってただけだからよ!」
ぞんざいに『こいつ』とボッスンに示されたヒメコが、激しく抗議する。
「しばくぞボケカスアホンダラ!」
「本当のことを言ったまでだろ。そうだキャプテン見てやってくれよ、そこのくだらな……」
ボッスンがテーブルを指差す前に、キャプテンが声を上げた。
「あ、これ! そうなの、私の依頼もこのことなの!」
「……くないよね、全然? すごい重要なことだよね?」
内心の焦りを顔にだだ漏らしつつ、ボッスンはすみやかに前言を翻した。
「声裏返っとるがな!」
『そうだよボッスン、すごい重要なことだよね?』
「お前まで声裏返すなや! ゴンセーオウセーソフトやろ!」
ボッスンに同調したスイッチにツッコみ、ヒメコはキャプテンに向き直る。
「キャプテンもオリジナルペロキャン狙とるん?」
「そうなの。というより、私の弟がね。前にも話したと思うんだけど……」
キャプテンの依頼は、もうすぐ誕生日を迎える弟に、大好きなペロキャンのオリジナルの味をプレゼントしたいので、一緒に考えて欲しい、というものだった。
「でも私、どんな味がいいのかわからなくて。弟と同じようにペロキャンが好きなヒメコちゃんや、スケット団のみんなだったら力を貸してくれるかと思ったの」
「やっぱりペロキャン好きに悪い人はおらんなあ。よっしゃ、アタシがひと肌脱いだるわ。ボッスンたちも、引き受けるやろ?」
「ああ、依頼なら仕方ないな」
『これまで見たこともない、オリジナリティあふれるペロキャンを見せてやろう』
「いやいやいや、今までのペロキャンだって充分オリジナリティあふれてるよ? あふれ出してるよ?」
『オレたちの戦いは、これからだ!』
「うん、そういうのやめて? 縁起でもないからやめて?」
熱血少年漫画の登場人物のような顔つきになっているスイッチに、ボッスンはツッコミを入れた。
「なあキャプテン、賞品は山分けでええ?」
「ええ、もちろんよ」
キャプテンも快諾し、話がとんとん拍子にまとまる。
「ボッスンとスイッチにもちゃんと分けたるさかい、心配しなや」
「だからいらねーって!」
『お気遣いなく』
「何言うとんねん。好き嫌いしたらアカンていつも言うとるやろ!」
「やめろよ、このエセおかん!」
ボッスンの抗議に耳を貸すことなく、ヒメコはやる気まんまんにペンを取り、ハガキに向かった。
作品名:ファイティング・ペロキャン 作家名:ゆふ