賢木紫穂小話
わたしの誕生日
腹が立つのは大好きな皆本さんのくれたものよりも、この男のくれたもののほうが私好みっだったということ。それは先月から10代向けのラインが展開された某ブランドのコンパクトミラーで、ツヤツヤしたきれいな包装紙で包まれていた。
そもそもがフェミニンな路線のブランドなので、淡いピンクや紫の色使いの商品が多い。さらに今回は10代の少女向けということで、キラキラのラインストーンがたくさんついている。とてもかわいい鏡。
「なんで私のほしいものわかったの? 勝手に『読んだ』の?」
賢木先生は「心外だ」と言わんばかりの顔で片眉をあげ、「読まなくてもわかるよ」と言った。
そんなことはわかってる。賢木先生が思考を読もうとすれば、きっと私は即座に気づく。
「こないだ医務室に転がって雑誌見てたときにいってたじゃねーか」
「そうだったかしら。よく覚えてるわね」
本当によく覚えているものだと私は関心した。こういうささいなことにマメに気が付くのがこの人のいいところ。で、悪いところでもある。そういう能力は結構自分を不幸にするのよね、と私は思う。
「ふーん。なんかむかつくけどうれしい。ありがとう」
「ちょっ…。むかつくってなんだよ…」
夜勤あけの先生はくしゃくしゃの髪。座ったままの彼の髪をなおすふりをして、私はそっと力を発動させた。
淡いピンクの店内。おそろいの服を着たかわいい店員さん。オープンしたての店にごったがえす少女たち。セーラー服にブレザー。ピンクのスカート、リボンのついたブーツ。そんな光景のなかに賢木先生がいるのを想像するとすごくおかしかった。でも、プレゼントのために女の子向けのお店にいくのなんて慣れてるんだろうな、と思う。
「ねえ、来年はもっと高いのにしてね」
「おまえなあ……。ガキのプレゼントにしたらフンパツしたっての!」
かわいくねぇ…とか思ってるのを知っている。でも他の二人のよりも私にくれるものが少しだけ特別だってことも知っている。