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星降る夜に

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シズちゃんと一度だけ夜空を見ていたことがある。
あれは夢だ。
実際あった事かもしれないけど、現実のどこにも位置しない。
そういうのは夢と同じだ。存在しながら、存在を認められないもの。
今まで、その日のことをシズちゃんと話したことはない。

+++++++++++++++

それは夏休みに俺とシズちゃんと新羅がドタチンのおじさんの家に呼ばれたときだった。
ドタチンのおじさんの家は、本当にびっくりするような田舎だった。
俺は両親揃って東京近辺の生まれであり、親戚の家も東京近辺に集中している。
それに加えて両親が親戚づきあいというやつをすごく嫌がったために、ほとんど田舎というものを知らない。妹たちも同じだ。
旅行に行くとそれは勿論自然はものめずらしかったけれど、東京に帰ってくる電車の中ではやがて現れるビルの数が増えてくることにむしろ安心し、帰ってきたなあと思ったものだ。
だからドタチンの田舎には正直びっくりした。
リゾートでしか自然に触れ合ったことがなかった俺には過剰に新鮮だった。

電車を降りて歩き始めるとすぐに民家がなくなってしまう。周りは程なく山道に入る。
都会と違う日陰は、木がまばらな陰をつくっている。
「ドタチンはここで育ったの?」
「いや、俺は東京。でも年に何度は遊びに来てたからな」

ほら、臨也。そう言って差し出された花を俺はどうしていいのかよくわからなかったら、「吸うんだよ」と言われた。蜜をか。少し甘かった。
俺はそれを口にしながらシズちゃんの様子を伺おうとすると、目が合った。
舌打ちして目をそらすのはシズちゃんのほうだ。
シズちゃんはあんまり機嫌がよくなさそうだった。多分俺がいるからである。ざまあみろ。
俺はシズちゃんといるときは常に神経の一部がシズちゃんに向いている。それはいつ「うぜぇんだよ!!」と言ってブチ切れたシズちゃんが暴れだすか分からないからで、防衛本能の一種である。

30分くらい歩いただろうか。新羅がバテて文句を言った。
家に着くと同時に「車で迎えに行ってやれなくて悪かったな」と言うおじさんは間違いなくドタチンの親類縁者だった。多分ドタチンはこんな風になるんだろう。
一方、シズちゃんはというと、大人しかった。元々口数の多いほうではないから、暴れない限りはうるさくはないんだけど。

「シズちゃん、何だまってるのさ」
「うるせーな話しかけんな殺すぞ。・・・暴れたら門田の迷惑だろうが」

俺はちぇ、と横を向いた。何常識人ぶってるのさ、化け物のくせに。
そう、シズちゃんはドタチンには懐いている。ドタチンもシズちゃんをかわいがっていた。
別に嫉妬とかじゃないけど、俺はそれがあんまり好きじゃない。だって人間と化け物が仲良くなんておかしいだろ?

部屋は四人まとめて広い客間だった。ある意味予想通りといえる。
旅館みたいに古くて広い家の客間は、畳の青っぽい匂いがした。
新羅のためにドタチンが布団を用意し、新羅は「悪いねえ」とか言って早速倒れこんだ。何しにきたんだ本当に。
とはいえ人の事は言えない。この旅行は、特に意味はなかった。

「夏休みどうせならうちの田舎に来ないか。もう三年だし」

と言ったドタチンの言葉は、正直三年だからなんだという意味で説得力に欠けていた。
しかし結局三人も集まってしまったわけで。

「ドタチン、夜までの間遊べる場所とかないの?」
「・・・暗くなったら何も見えねーから明日以降の昼間にしてくれ」

唇をとがらせた俺の手の中の携帯電話は電波が届かなくて既にただの箱だった。

「門田」

シズちゃんが立ち上がる。それを目の端で見る。

「なんだ」
「ちょっと外出て来る。遠く行かねぇし、すぐ帰ってくるから」

ドタチンは何か言おうとしたがうまく言葉にならず、「気をつけろよ」とだけ言い、シズちゃんはそのまま出て行った。
襖が閉まると俺はさっそくドタチンに文句を言った。

「・・・ドタチン、俺のときと対応違くない?」
「静雄はキレなければ問題ないだろ。絡んでくる奴なんていないだろうし・・・」
「俺だって問題な」
「あるよ」

ドタチンはいつから俺の保護者になったんだろう・・・と思いながら、俺は夕飯までの時間をドタチンとテレビを見ながらすごした。
夕飯の少し前にシズちゃんが帰ってきて、俺の家では到底ありえない早い時間の夕飯がはじまった。

作品名:星降る夜に 作家名:裏壱