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I'm in love with you

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昼過ぎに突然来た男は今、キッチンにいる。
自分の家に芳しい香りがするのは珍しいことだ。奴が料理にかまけている間、特にやることもなかったので、すっかり冷めてしまった紅茶を啜りながら、適当にテレビを見ていた。

特に何かが見たかったわけではなく、ただの暇潰し。ぽちぽちとチャンネルを回していった結果、ありきたりの昼ドラに落ち着いた。恋人であろう男女二人が、薄暗い寝室で口づけを交わしあっていた。そのキスは甘く、深いものであるはずなのに、女の表情に甘さは微塵もなかった。男の背に回された両手が、切なさを伴って男のシャツを掴んでいる。三度角度を変えて交わされた口づけが解かれる。女はそろそろと掴んでいた手を放した。“皺になっていたらごめんなさいね”と言いながら。
そして男は立ち上がって、ナイトテーブルの上に置いてあった上着を掴んで、女に背を向けた。“good-bye”と男が告げ、パタリと静かに扉が閉まった。女はくしゃりと顔を歪めて、音なく呟く。
“I'm in love with you...”
涙が一筋だけ、女の頬を伝った。

そこまで見て、残っていた紅茶をいっきに飲み干した。
女は捨てられたのだと気付いて、ありきたりのメロドラマだと嘆息する。場面は変わって男は花屋で綺麗な花束を買い、別の女に会いに行くべく電車に乗り込んだ。高級レストランにデートに誘っていたようだ。その高級レストランがなぜかフランスにあるという劇中の設定がひどく不快だが。

どうするだろう、と思った。他の女に負けたら、俺はどうするだろう。このドラマの女のように一人涙を流すか、いや血を以て他の女を排除するような強行手段に出るかもしれない。
そうなってみるまで分からないな、と思った。相手が人間の女なら、数十年待てば帰ってくるかもしれないし。
でもその数十年をどうやって過ごすのだろう。あぁくだらない。

「何がくだらないのー?」

ソファの後ろから間延びした声が聞こえて、声に出していたんだなと気づく。相変わらずのエプロン姿で髪を軽くリボンで束ねている。

「テレビだよ、くだらねぇ昼ドラ。それより出来たのかよ?」
「うん。後は煮込むだけ。期待しとけよ、ブイヨンから作ってやったんだから」
「桃のムース」
「ちゃんと冷蔵庫で冷やしてます」
「ならいい」
相変わらず坊ちゃんはデザートにご執心なんだから、とフランスはエプロンを外しながら、隣に腰を下ろした。
それをちらりと横目で見ながら、顔はテレビに向けたまま、言葉が喉を通り抜けた。

「俺に、女がいるって言ったら、お前どうする?」

あまりに突拍子の無い質問だったのだろう。フランスはぱちくりと目を瞬かせてから、どうしたの急に、と笑った。いいから答えろよ、と促すと少し苦い顔をして笑った。そして同じようにテレビを見る。

「そーだなぁ……イギリスが幸せならそれでいいよ。お前が幸せなのが一番だから」

そう言って、フランスはキスを仕掛けてきた。
何度他の女に言ったのか分からないような、歯の浮くセリフだ。

あぁそうか、と落胆した。その女に嫉妬すらしないのかお前は。恋してるのは俺だけなのか。何だよ恋って…生娘じゃあるまいし、今更焦がれるものでもあるまいに。

触れ合うところから始めたキスは、だんだんと激しさを増していった。歯列をなぞられ、舌を吸われる。やめろこんなキスをするな勘違いするだろ。
酸欠にくらくらし始めて八つ当たりの思考も働かなくなってきた頃、ぢゅ、と下唇を吸われて唇が離れていった。
フランスが潤った唇を舌で舐め取る。こういう時のこいつは酷く扇情的だ。

「って言えたら格好良いんだろうけど…」

働かない頭を必死に動かそうとする。話はどうやら突然のキスの前の会話の続きらしい。フランスは立ち上がって、髪を束ねていたリボンをするりと外しながら目の前に立つ。自然、見下ろされ、見上げる形になる。

「力ずくでも取り返すよ。恋ではあらゆる手段が正当化される。お前んちの言葉だろ?」

何を思ったのか、突然俺の手を持ちあげて、薬指にキスをした。何してんだよ、と聞くと、いいからいいから、と二、三度キスを繰り返した。それから持っていたリボンを小指に絡め始める。

「世界一美味い飯食わせて、世界一美味いワインも振る舞って、世界一深いベーゼをして、世界一気持ちいいセックスして、世界一熱い愛を囁いて…そうしたらお前は俺のものになるだろ?」

きゅ、と小指にリボンが結わえられる。綺麗な花結び。
昔から、それこそノルマンの時代から、お前はひらひらしたリボンを付けていて、いくつか俺に寄越したよな。俺は下手くそな縦結びにしかならなかったのに、仕方ないなぁ貸してごらん?なんて言いながらお前はいつも器用に花結びを結んだ。
あぁ、どうしよう、怖い。お前の成すこと全てがお前にしか繋がらない。数十年?無理だ、そんなの。

「はっ、俺はそんなに即物的じゃねぇよ」
「いーや、お兄さんは自信あるね。お前はどの女のとこに行っても、最後は必ず俺のところに戻ってくる」
「根拠のない自信だな。どうしようもないロマンチストだ」
「お前が現実主義すぎるから、足して二で割ったら丁度いいだろ?」

それに、根拠がないわけじゃないし。
そう余裕ぶって薄く笑ってくる。
なんだよなんだよ、まるで俺なんか簡単に扱えるみたいな
俺だけが、雲を掴むような

「I'm in love with you...」

「え?」

海色の硝子玉が見開かれて、暫し見つめ合う。

「どうしたの、急に。いつも言ってくれないのに」
「……え」

先に声を発したのはフランスだった。何を言ったのか分からなくて、記憶の糸を手繰り寄せる。えぇと、何を考えていたのだったか。思考はふわふわと、ドラマまで遡ってそして……。

「…ッ!?」

一瞬にして頬に熱が競り上がってくるのを感じた。まさか、声に出ていたのか。
自分の行為に呆然としていると、くすりと目の前の男が笑った。

「何、さっきまで泣きそうな顔してたのに、いきなり愛の言葉呟いて、真っ蒼になって、真っ赤になって……どうしたのさ」

くすくす、と奴にしては品の良い笑みを繰り返し、器用にも自らの小指に花結びを施す。恥ずかしいんだよお前、赤い糸とか言いだしたら殴るぞ。

「心配しなくても、イングランドに初めてリボンを結んだ日から、お前は俺のものなのに」

だから、お前はいちいち恥ずかしいんだよ!
更に頬に熱が溜まるのを感じて、ふいを顔を背けると、リボンを結わえていない方の手でわしゃわしゃと髪を撫でられる。そうだよ、初めてリボンを結んでもらったときも、こうやって髪をくしゃくしゃ混ぜられた。覚えているのか。何度も争いを繰り返して、本気で殺してやろうと憎んだことだって数えきれないほどある。それでも、お前はそんな些細な思い出を捨てずにいてくれるのか。

「フランス、俺とお前が寝室でキスをしたとする」
「うん?」
「部屋を出ていくとき、お前、俺に何て言う?」
「え、出ていかなきゃいけないの?」
「……は?」
「ベッドの上でキスしたら、それはその先に進んでもいいってことだよな? え、なに、イギリスお兄さんのこと誘ってる?」
作品名:I'm in love with you 作家名:瑞貴