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フユウ@ついった
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【微腐:赤緑】あさのひざし

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【腐女子向け・BL この意味の分からない人はスクロールせずにお戻り下さい】




 ぼくの知っていた世界は、ごくごく小さな囲いの中だけだった。


  そこから見える空はとても近くて、昼には日向ぼっこのために地面を温めてくれる太陽も、夜には安らかな眠りにつけるように静かにぼくを照らしてくれる月も、星も。手を伸ばせば胸の中に抱きしめることが出来るんだろうと思っていたけれど、ぼくは小さいからまだそれが出来なかったんだ。でも、ぼくが昔より大きくなっても、いつまで経ってもぼくの指先はそれに触れられなかった。それがとっても、悲しかった。

  他に、ぼくの知っている世界の中には色取り取りの花が花壇いっぱいに植えられている場所があった。とってもいい香りがしてぼくはそこが好きだった。蝶々や他の虫達も、そこが大好きだった。けれど、彼らはずっとそこにいる訳ではなかった。鳥のように宙を掻く羽を持っていて、ぼくが見つめることしか出来ない空の向こうに飛んでいってしまう。ぼくは羽を持っていない。ぼくは空を飛べない。ぼくは、この青の向こう側の世界には行くことは出来ないんだ。

 ねぇ、ぼくを「外」に連れて行って。ぼくの兄弟達は「外」に行ったのに、ぼくだけがここにいる。ぼくも見たいんだ。大きな翼を持つ子が言っていた、「外」の世界は凄く綺麗だって。ここの花壇よりもずっと綺麗だって言っていたんだ。そんな世界に、何でぼくだけ行けないの。ここから出して、この世界から。
 でも、ぼくにご飯をくれる人はそんなぼくの声を聞いても首を傾げるだけだった。




 ある日、赤色と白色の向こう側で、知らない人の姿が見えた。ぼくはびっくりした。ご飯をくれる人以外、人を見たことがなかったから。
 その人は赤い色をしていた。ぼくがじっと彼を見つめていると、彼がぼくのことを見た。彼は不思議な赤い瞳をしていた。花壇の花よりも深い色で、太陽よりも眩しくない。すごく、きれいだと思った。
 彼の腰にはぼくが入っているのと同じ丸いものが沢山付いていた。その中に、ぼくと同じように誰かが入っていた。彼らも、こちらを見ていた。色んな顔をした彼らが、ぼくに向かって笑いかけていた。彼らで顔を見合わせて、楽しそうに笑って何かを話している。けれど遠すぎてぼくには聞こえない。なんて言っているの。ぼくが困った顔を作ると、彼らも困った顔になった。
 だから、ぼくはもっと困った顔をした。泣きそうだったんだ。彼らは楽しいのにぼくはずっと悲しい。これからもそうだ、大きい翼を持つ子の話を聞いて、太陽と月を見送りながら、花の香りを嗅いでお昼寝。毎日その繰り返しで、明日からもそうなんだ。

 ふわりとぼくのからだが浮いた。霞んだ世界のせいで、何が起こったのか良く分からなかった。けれど、ぼくは確かに宙を駆けた。

「………イーブイ」

 パシャンと音がして、赤い光の中からいつもの部屋に出た。ぼくが上を見ると、そこにはさっきの赤い瞳があった。呆然としているぼくの前に彼はしゃがんで、それからぼくを手のひらで抱いて、彼の瞳よりも上に手を伸ばして、一番上にぼくを掲げた。
 イーブイ、ぼくはそう呼ばれている。下に見える優しそうな彼が少し笑った。だからぼくもつられて笑った。さっきまで悲しかったのに、なんでだろう。

「一緒に、行こうか」






 ぼくの世界は、きみのおかげで広がったんだ。










 外の世界。空の向こうの世界。
 ぼくの想像なんかちっぽけで、こんなに大きくて色んなものがいっぱいで。最初の数時間は怖くてきみの胸の中でぶるぶると震えているだけだったけれど、すぐにぼくはその外の世界に夢中になっていった。

 赤いほっぺの黄色い子が、きみが手に持つ綺麗な石を見ていきなり後ろに電光石火した。その子が言う話によると、その石を使うと自分の姿が変わってしまうんだって。
 きみはぼくの前にも石を出して見せてくれた。中に赤い炎が燃えている綺麗な石、嫌がるくせにあの子の出す電気とそっくりな黄色い石、葉っぱから落ちる雨みたいな青い雫の冷たい石。
 どれも綺麗だった。綺麗だったけど、ぼくは首を振った。何だか少し怖かったんだ。
 きみはそんなぼく達を見てから、リュックサックにそれらを閉まった。ぼくとあの子はほっとした。
 進化したい時になったら、きみはそう呟いてぼくらの頭を撫でた。

 そう、きみは優しかった。毎日が楽しくて仕方ないぼくの世界でも、きみがいなければ意味がなかった。
 ぼくはきみが大好きで。他の子もきみが大好きだった。きっときみもぼくのことも、ぼく達のことも好きだと思っていてくれると思う。だって、他の子には見せない表情も、声もぼくらは知っている。喋らなくても、顔に出さなくても、ぼくは他の子よりもきみのことを理解できるよ。
 それでも、きみの全てを知ることは出来ない。きみがぼく達の為に隠していることがあっても、ぼくは優しい嘘を見抜けない。

 ああ、それから。ぼくも赤いほっぺの子も、きみとは違う生き物らしい。ぼくはきみの言葉が分かるけど、きみにはぼくの言葉が伝わっていなかったんだ! それでもきみはぼくのこと、分かってくれているよね。それって凄いことだ、ぼくはそう思ったんだ。


 大きな建物の中。言葉には出さないけれど、きみがとても怒っていることをぼく達は感じていた。大きな花の子と、硬い甲羅の子と、熱い尻尾の子、それと黄色い子も、みんなでぼくに教えてくれた。ここにはぼくらの敵がいる。きみは見たんだ、ある悲しい子の悲しいお母さんの姿を。我が子の元へ走ろうとした母親が、殺されてしまった話も聞いたんだ。優しいきみなら思うだろう、そんなことをする奴らを許さないって。
 そんなことが二度と起きないように、一歩一歩くるくる回りながら敵の居場所へと近付いていく。そんな時、きみが驚いたような表情をして足を止めた。
 ボールの中から見えたのは、知らない人の姿。あっちもびっくりして口を開けていた。緑色の瞳が印象的だった。
 もしかして、こいつが敵なのか。そう思ったぼくはきみが呼んでいないのに無理矢理外に飛び出した。唸って、睨みつけてやったら、すぐにきみはぼくを抱き上げた。珍しく焦っているようなきみの表情の理由がぼくには分からなかった。

「………グリーン」

  きみは彼のことをそう呼んだ。グリーンはそう呼ばれると、すぐにボールを投げて来た。知り合いなのにバトルするの? 良く分からなかったけれど、きみがその気ならぼくはそれに応えるよ。

 バトルはぼくらが勝った。グリーンは悔しそうな顔をしていたけど、すぐにさっきの顔に戻って背を向けた。そしたら、きみがまたいつもと違う表情で彼の腕を掴んだ。ぼくはただ、いつもと違うきみに目を奪われていた。

「………一人で大丈夫?」
「……はっ? 何言ってんだよレッド、今回はお前が勝ったけど本当は俺の方が強いんだから、大丈夫に決まってんだろ!」

  グリーンの瞳が潤んでいた。そのまま彼は、きみの手を振り払って走って行ってしまった。
 きみは、悲しそうな顔をしていた。あの時は、ぼくも何だか悲しかった。