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フユウ@ついった
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【微腐:赤緑】あさのひざし

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 それから、きみとの旅はあっという間だった。
 きみはきみの敵を倒した。そしてそれは、きみがもっと上へ行く為のチケットだったんだ。

 きみが目指す最後の場所、きみの旅が終る場所。そこで待っていたのは、グリーンだった。
 赤いほっぺが、きみとグリーンは「おさななじみ」で「ライバル」なんだって言っていた。よく分からないってぼくが言ったら、「大事で特別なんだ」って教えてくれた。大事で特別、それってぼく達よりもかな。そう考えると少し寂しかった。
 そんな彼が、きみの壁になった。きみはどう思っただろう。きっとこの頃のきみは、「楽しい」と思ってた。バトルは楽しいものだと信じて疑わなかったんだ。

 レッド、きみは強かった。ジムリーダー、悪の組織、四天王を倒して、チャンピオンになった。そして、きみの大事なグリーンを倒して。
 彼が泣いていたことを、ぼくらは知っているよ。きみが立ち尽くしていたことも。崩れないはずのきみの信念にヒビが入った瞬間を、ぼくは見てしまった。






 ぼくはまた、空を眺めるようになった。
 ぼくが生まれたあのマンションの屋上とそこは似ていた。しかしそこには、芳しい花と草の香りや、温められたコンクリート、青い空と太陽も、綺麗な夜空だって無い。あるのは、銀世界。強い生き物と、きみの力とぼくらの力。

 きみはここに登ってから、ぼく達に何も教えてくれなくなった。きみの言葉を聞いたのは何ヶ月前のことだろう。喋らなくても、ぼく達はきみのバトルでの指示も、言おうとしていることも分かるよ。でも、きみがぼくらに開いていた心は、もうどこにも見つからないんだ。
 ぼくは、きみが、何を思っているのか知りたい。閉ざしてしまったきみの心を知りたい、助けたい。今のきみを見ていると、ぼくは苦しい。



 ある日、あれだけ吹雪いていたこの山の山頂が、音も無く静まり返った。キラキラとした氷の結晶が舞い落ちてくる。久しぶりに見た太陽の光は、ぼくの冷え切った心を少なからず温めた。
 急に、ぼくは自分の体がふわりとする感覚と、どこからか湧き出してくる不思議な真っ白で眩しい光に包まれていくのを感じた。きみはぼくを見つめていた。ぼくもきみを見つめていた。
 暫くして、視界がいつもより高いことに気が付いた。そして、赤色ほっぺとみんながぼくを見て目を丸くしていた。

 ぼくは、進化した。
 きみがぼくのことを「エーフィ」って呼んだ。
 その瞬間だった。

 ぼくは、きみの中にある頑丈な扉をすり抜けた。きみの心がぼくの中に流れ込んできた。
 ぼくは耐え切れなくなった。ぼくは、叫んだ。
 余りにもきみの心の中が、悲しくて、苦しくて、怖くて、辛い。涙が溢れた。こんな感情をぼくは知っている。
 昔の、きみと出会う前のぼくだ。
 大きくなったのにいつまで経っても触れられない。見つめる先の空の向こうに羽ばたけない。

―――ねぇ、ぼくを「外」に連れて行って。何でぼくだけ行けないの



 ぼくは鳴いた。きみにはそう聞こえたんだろう。いきなり倒れて、鳴き続けるぼくは、きみから見ればきっと変だろう。それでもいいよ、だからもうこんな場所にいるのはやめよう。きみが平然としていることが、どんなに悲しくて苦しくて怖くて辛いことなのかぼくには分かるんだ。

 きみはぼくを抱き締めたけれど、ここから動こうとはしなかった。きみの心がもっと悲しくなっていくのを感じた。だからぼくは、漏れる嗚咽を必死で堪えた。




 それから、しばらくして、ぼくはきみの故郷にいた。
 隣にきみはいなかった。きみの匂いもしなかった。
 きみの隣にいると、ぼくは胸が痛くなって死にそうになるんだ。だから、きみはぼくをグリーンに預けた。山頂まで、行き先を言わないきみを捜し出したグリーンに。きみはすぐさまバトルを仕掛けたね。きみはグリーンに求めるものが多すぎるんだ。きみが彼に感じた失望と、彼が来てくれた喜びが入り混じって、あの時は不思議な気持ちだった。

 きみは、あの時のぼくだ。だから、誰かに助けて貰わないとあそこから出れないんだ。
 羽のないぼくがきみの手で宙を飛んだ時みたいに。きみを救い出してくれる誰かが現れるまで、きみはとっても辛いんだ。






「エーフィ……エーフィ!」

 グリーンが走って来て、緑色のカーペットで寝そべっていたぼくに抱きついた。そう思ったら、ぼくを持ち上げて少し重そうにふらつきながら階段を降りて行った。どうしたのグリーン、今日はゴールドやコトネとは戦わない日でしょ。ぼくの声にも答えずに、グリーンは走って、家の外に出た。


「…………エーフィ」



 ぼくは久しぶりに聞いた。
 きみの声を、優しくて、温かいきみの音を。
 グリーンの腕から飛び降りて、ぼくはきみの胸の中に飛び込んだ。
 きみの心にはもう扉はなかった。そして、きみの心は悲しみも苦しみも恐怖も辛さも何にもなかったんだ。きみと繋がるぼくの心は温かかった。
 グリーンが笑った。そしたら、レッドも笑ったから、ぼくもつられて笑った。




 ぼくは今、笑っている。