recollection
・・・眠りの淵から不意に意識が浮上する。
――――なんだ?
今
眠りから覚める直前に感じた感覚。
小さなトゲが、刺さるような。
感覚で分る。
これは、自分の”痛み”じゃない。
・・・相棒?
目覚めたそこはいつもと変わらぬ冷たい石造りの自分の心の部屋。
何かあったのかと気配を探ってみるが、もう自宅の部屋に帰ってきているらしい。さしあたって危機が迫っているわけでもない。
…なら、今の感覚はなんだ?
引きずられるような強い感情だった。
今まで感じたどの感情とも少し違うそれに、彼自身覚えはなかった。
そして心の近さ故に、今まで相棒が伝えてくれたどの感情とも違う気がする。
妙に気になって、もう一人の遊戯は意識を外に向けた。
『相棒?』
「あ・・・っ」
別に脅かすつもりはなかったのだが、遊戯はぼんやりと何事かを考えていたらしく、ほとんど飛びあがらんばかりの勢いで振り返った。
「ご、ごめん起しちゃった?」
『いや・・・何となく、な。…どうかしたのか?』
「う、うーん・・・、別に、たいしたことじゃない、よ?」
慌ててパタパタと手を振る相棒は、カオに”しまった”と太筆で書かれているような気がするほど・・・誰がどう見ても動揺している。
しかも物問いたげな視線に負けたのか、珍しく視線を泳がせていたかと思うと、ふい、と顔も逸らしてしまった。
・・・というか。
――――耳まで赤くしておいて「たいしたことない」、もないよな・・・。
…さて、どうしたものか。
当然気にならない訳はない。何せ相棒の事なんだから。
しかし、今のようにほとんど意地のように「何でもない」と誤魔化そうとしているのに、それを無理やり聞き出すのも気が引ける・・・。
だが気にならないワケ以下略。
「・・・・・・あ、あの。もう一人のボク?」
そのまましばし思考がぐるぐるしていたらしい。
本当におずおず、と相棒にしては珍しく腰の引けた声で問い掛けてくる。
『…なんだ?』
「あのー・・・視線が痛い、よ・・・?」
そう言われて、漸く肩からチカラが抜けた。
・・・・・・けして意識してやったわけじゃないんだが。
これはダメだ。重症らしい。
・・・ちょっとアタマを冷やそう。
もう一人の遊戯はふ、と一つ息を付くと、不安そうにこちらを伺う相棒には淡い笑みを返しておいて、そのまま自分の部屋に戻ろうときびすをかえした。
「待ってよ、もう一人のボク!」
「うわ!?」
さて、と自分の部屋の扉に手をかけた時。
慌てて追って降りてきたらしい相棒に背後から思いっきりタックルされ、危うく扉に頭から突っ込みかけた。
寸でのトコロで手をついたためサイアクの事態だけは回避できたが、あの勢いで突っ込まされた日にはタダでは済むまい。
「ど、どうしたんだ、相棒」
イキナリの不意打ちにさすがに動揺を隠しきれないもう一人の遊戯だったが、それでもまず自身より相棒を気遣ってしまうタチは健在で。
・・・おかげで、うまく切りぬけられなかった動揺の結果とはいえ自分の反射的な行動に、彼の背中にしがみついたまま顔すら上げられなくなった遊戯は更に朱を上らせた。
―――ど、どうしよう・・・。
怒らせたのかと、思ったのだ。
心配してくれたのであろう彼の気遣いを、下手な誤魔化しをしてかわしてしまったから。
表情を変えることの少ない彼の、最近気付いたほんの少しの困った時と、怒った時のサイン。困ったような、少し淋しそうなあるかなしかの僅かな笑み。
そっと顔を上げたとき、丁度心の部屋に帰ろうとしていた彼の横顔を伺うことができなかったから。
だからってこの止め方はどーだろう。
自分でもツッコミを入れてみるが事態は好転しない。
もう一人の遊戯はもう一人の遊戯で背中に張り付かれているためリアクションが起こせないし、遊戯は遊戯で考えなしにやった自分の行動にぐるぐるしながら動けないでいる。
「「・・・・・・。」」
作品名:recollection 作家名:みとなんこ@紺