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Can I.....?

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「そんなに、平和島静雄のことが好きなのね。」
「・・・・・・・・・は?」
 くるくると思考を回していると、ふっと波江が落とした言葉に一瞬思考がぴた、と止まった。
「俺が・・・?シズちゃんを・・・?」
「だってそうでしょ?あなたがわざわざ手を出さなければ彼だって、あなたに手を出してこないのに。わざわざ構いにいくなんて、そうとしか思えないわ。」
「ちょっと・・・はぁ?バカなこと言わないでよ。」
 波江は本当にそう思っているらしく、からかっている様子ではない。その様子が、余計にいっそう、衝撃が募る。止まった思考に、びりびりと体が痺れるような感覚に、口元がひくついているのが自分でもわかる。
「まぁ、別に私はどうでもいいけど。・・・じゃあ、私は帰るから。ご飯はまだ温かいし、他のもそのまま食べられるから。」
 波江は火を止めて、エプロンを外すとはい、と俺に渡してキッチンを出ていくと、カバンをもっていつも通りに帰っていった。
 がちゃん、と音がしてドアが閉まり、鍵のかかる音がする。一人になった室内は本当に静かで、波江の作ったご飯のいい香りが漂ってはいるけれども、身体が動かない。
 シズちゃんの事が好き・・・・?
 俺が?
 この、俺が・・・?
 高校に入学してからずっと、いつ死んでもおかしくないようなやりとりしかしてきていないのに、俺が、シズちゃんのことが好き・・・?
 バカな。そんなバカな。こと、あるわけない。あるわけないよ。波江。
 頭ではそう思っているのに、なぜか知らないけど波江が渡したエプロンが目に入るだけで、思考はずっとぐるぐるとそこばかりをめぐる。思考は回ってはいるけれども、同じ言葉ばかりが頭の中に浮かんでは消えていく。
 そのことが、逆に思考が止まっているということを表し、それをおかしいくらいに冷静に、客観的に分析している自分もいる。
 じゃあ、なんで俺は波江の言うように、シズちゃんを毎度のことのようにからかいにいく?
 なんで、あと少しで死ぬような目に毎回あっていながら、なんでわざわざ、シズちゃんがいそうなところを選んで池袋を歩く・・・?
 本当に嫌いなら、波江の言葉をどうしてこれほど気にしている?それこそ、波江の言葉も、シズちゃんも無視をしたらいいじゃないか。俺には、そのことが可能なはずじゃないのか。本当は、波江の言うように、心のどこかではシズちゃんのことが、好きなんじゃないのか。
 だんっという硬い音は思ったよりも自分の耳元で大きく響いた。その事にはっとして音がした自分のすぐ隣を見ると、握りしめた拳がキッチンの白い壁を殴りつけていた。
 あるはずない。あるはずないよ、波江。そんなことは、あってはいけないんだよ。人類を愛する俺が、化け物のシズちゃんを愛するなんて、あっちゃいけないんだよ。
 知らず知らずに、痛いくらいに歯をかみしめて、いつの間にか力の入っていた口元の力を、ゆっくりと抜いた。


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作品名:Can I.....? 作家名:深山柊羽