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『ファースト・インプレッション』


特に何も考えずに、覚えてない、と一言。
決して悪気はなかったのだが、とても傷ついた顔をされてしまった。
そこで初めてひどいことをしたと気づいたが、謝る前に大丈夫ですと言われた。
全然大丈夫な顔をしていなかったが、彼はそのままふらふらと部室から出て行く。
その後姿を眺めながら、俺はもう一度思い返すことにした。

『準サンさぁ、俺と初めて会ったときどう思った?』



「・・・やっぱ無理」


誰もいない部屋でつぶやいた。当然だが何の反応も返ってこない。
俺はため息をついてそこらへんにあったクッションに八つ当たりをした。
へこんでもすぐに元に戻るそれは、なんだかあいつに似ている。

反応が面白くていつもからかって遊ばせて貰っている。
時々本気で泣かしそうになったこともあるが、次の日には大抵元に戻っていた。
俺はそんな利央を見てほっとしたり何だか腹が立ったりしていた。

次の日には何事もなかったかのようにけろっとしているということは、
結局俺の言葉は彼にとって、さほど重要なものでないのではないだろうか。
確かに重要視すべきことではないし、ずるずると引き摺って欲しいわけではない。
でもそうしてか、そう思うと寂しくなっている自分が居た。

(はらたつ)

このまま利央についてぐるんぐるんと一晩中、悩み続けるのも何だか腹立たしい。
そう思って布団をかぶって電気を消したが、きつく瞼を閉じても思考は停止しなかった。
何度目かの寝返りを打って、明日あいつにあったら殴ってやろうと考えた。
いつまで経っても、眠気はやってこない。忘れようとすればするほど利央の顔が浮かぶ。

なんとも最悪な夜になった。


あくびをかみ殺して朝練にいく。朝の日差しがほこほこと気持ちがいい。
結局、いつの間にか寝ていたようだがすっきりとしない起床だった。
グラウンドに入る前に一度立ち止まった。あまりにもぼんやりしすぎていたからだ。
頬を両手で挟むようにして叩いた。ばちん、といい音がして痛みが滲んでくる。
気休め程度にはなったらしく、少しはマシになった気がした。
大きく息を吸い込んでグラウンドに入った。部室はそこを横切るとある。
しかし部室に入る前に、グラウンドにひとつだけ人影が見えた。
目立つ髪色とふわふわの後ろ頭を見ただけで、誰かなんて俺じゃなくてもすぐわかる。

「りおう」

まだ頭が寝ていたのかもしれない。ほとんど反射的にその名を呼んでいた。
声で誰だかわかったのか、利央はあからさまに驚いて身体を上下させる。
怖いものでも見るように恐る恐る振り返る。その態度に少し苛立ちを覚えた。
寄って来ようとしない利央から目を離さずに、俺は大股で彼に近づく。

「昨日の話だけど・・・」

あと数歩という距離で言葉を発すると、ぎくりとした利央が突然俺に背を向けて走りだした。
これもまた反射的にその背中を追った。まるで鬼ごっこの鬼のように。
しかしなかなか距離が縮まらない。そこで初めて利央が本気で逃げていることに気づいた。
激しい怒りの感情が、腹の奥底で湧き上がるのを感じた。

「逃げんな、聞け!」

昨夜、人がどれほど悩んだと思っているんだ。
お前がアホなのはその髪型だけで十分だろう。そう叫んでやりたかった。
たぶん、俺が全速力を出せばあの背中に届くだろうと思った。
だけど朝練の前に本気を出すのも馬鹿らしい。既に他の部員たちが集まりつつあるのが視界の端に見える。
相変らずユニフォーム姿の背中を向けたままの利央とは違って、自分はまだ着替えも終えてない。
和さんたちに迷惑をかけるのはさすがに忍びない。心の中で舌打ちをして、その場にしゃがみこんだ。

「痛ッ」

「えっ!?」

そんな大きな声でもないのに、利央の耳には届いたらしい。
足首を押さえて俯けば、彼の姿は何も見えなかったが小走りで近づいてきたのが分かる。
おろおろと俺の前にしゃがみこんで、大丈夫?と情けない声を繰り返している。
心配そうに伸ばされた手を逆に掴みあげた。

「お前ってほんとばかなのな、」

喉の奥だけで笑う。見上げると利央と目が合った。
一瞬、よくわからない顔をしたがさすがに俺の演技に気付いたらしく、青ざめる。
慌てて腰を上げもう一度逃げようとする利央の腕に、必死でしがみつく。
少し怒りをこめて強めに締め上げると、さすがに恐れをなしたのか抵抗を止めた。
その代わりに泣きそうな・悔しそうな顔で、しゃがんだままの俺を見下ろしてきた。

「準サン卑怯!!」
「卑怯なのはどっちだ。一目散に逃げやがって」

自分でもそう感じていたのか言い返せないらしく、利央はぐっと言葉を飲み込んでいる。
もう逃げ出したりはしないと思うが、俺はその手を掴んだまま立ち上がる。
見下ろしていた利央の目と、しっかり高さが合うように。
きっと今のこいつは俺の目を見ないと話を聞かない。なぜかそう感じた。
背中に他の部員たちの視線を感じる。利央も俺の肩越しにそっちを見ているようだ。
あとで和さんに謝らないと。きっとまだ朝練が始まっていないのはあの人の配慮だと思った。

「お前は俺と初めて会ったときのこと、覚えてんのか?」
「・・・はい」
「だから嫌だったのか?自分は覚えているのに俺が忘れてて」

答えはない。だけど逸らされた目を見れば答えはわかった。わかりやすい奴だ。
一晩考えた、考えたけど思い出せなかった。それが何だって言うんだ。
何だってこいつはこんなに傷ついているのか。俺の言葉を恐れて逃げ出すのか。俺にはさっぱりわからない。
そのままそう言ってやりたかったが、それは言葉にならずにため息と一緒に全て吐き出されてしまった。
ふっと轟々と渦巻いていた怒りとか煩わしさが消える。胸の内が穏やかになると自然と言葉が溢れた。


「だって俺の生活に勝手に入り込んでいたのはお前の方だろ」


伏せていた目が、驚いたようにぱっとこちらを向く。口が半分開いている。間抜け面だ。
特に何も考えずにその顔を見て笑うと、利央がびっくりしたように目を丸くさせた。
そんなに珍しい顔をしているのだろうか。気になったが緩んだ口元はどうにも治らない。
風が吹いてグラウンドの砂が舞い上がる。嗅ぎなれた土の匂いが鼻を掠めた。
この匂いを感じると、野球を思い出す。野球を思い出せば、部活を思い出す。
そこには普通に、こいつの顔が混じっている。

「お前は気づいたら俺の隣に居たんだよ。第一印象なんて今更わかんねぇよ、そんなもの」

最初が肝心とはよく聞く。確かにそうだと思う。自分の決め球を最初に見せ付ければ相手は少なからず怯む。
だけどそれが全てじゃない。最初に見せた決め球を、簡単に攻略されてしまうときだってある。
初めて会ったときのことなんて忘れた。だけど今はこうして俺の記憶の中にちゃんといる。
それだけでいいんじゃないの?そう言いたいとも思ったが、そこまで口にする気はなかった。


「そうだね」


一瞬、自分の考えが漏れていたのかと思った。利央はいつものアホ面で笑っている。
この間抜け面にどこまで伝わったのかはわからないが、とりあえずはいいかと思った。
ぱっと手を離し、素早い動作で強めに足を踏んでやった。
作品名:はじめまして、 作家名:しつ