歪み、その4。
「以上、彼らがこの球技大会で何かしらの妨害を行う可能性があります。
各自、それに気をつけて、当日、無事終了させましょう」
生徒会室。
つらつらと出てくるくだらない言葉を吐き出しながら、
いつものように僕は生徒会副会長を演じる。
傍には結弦がいた。
結弦は熱心にNPCが作成した球技大会の資料を見ていた。
真面目な男である。
そして、会議が終了した。
「いよいよ球技大会だな、副会長」
廊下を僕と結弦、並んで歩く。
「ああ、お前の担当は保健係だ」
結弦が生前、医者を目指していた事を知っていた僕は結弦にそれを任命した。
「やっと俺、役に立てるんだな…」
「バカか、基本的には怪我をしても、すぐ治るんだぞ」
「じゃ、何のために、副会長は任命してくれたんだ?」
「…さあな」
「もしかして、俺の事、考慮してくれたのか?」
「いや、万が一、重病人が出て、困るお前の姿が見たいだけだ」
「…副会長、優しいな」
「はぁ?今のどこが優しいんだ?」
「俺、頑張るよ」
「頑張って、困れ」
「それは嫌だな」
結弦は困った表情を浮かべるどころか嬉しそうに僕を見ていた。
「さて、今日はもう仕事はない」
「学食に行く?」
「いや、訓練をしよう。SSSが銃撃戦を仕掛ける事もありうる」
「…あるのか?」
「僕には連中の思考回路はわからないからな」
とは言うものの、今回のSSSは恐らく、
ゲリラライブを仕掛け、球技大会そのものを潰すか、
球技大会にゲリラ参戦するくらいだろうと推測する。
だが、ゲリラライブはないはずだ。
NPCを惹き付けるボーカルがそう簡単に見つかるとは思えない。
そして、銃撃戦があるかというとそれもない気がする。
連中はNPCには手を出さない。
これ見よがしにNPCの前に銃を出す事はリーダー格の女が許可しないはずだ。
幸い、僕も結弦も連中にNPCだと思われているはずだ。
これから遂行する計画にはそれは必要不可欠だった。
「副会長?」
「喜べ、結弦、今日はみっちりお前を強くしてやろう」
「えー」
結弦は思い切り嫌そうな表情を浮かべていた。
そのような顔をされると益々、厳しくしてやりたくなった。
「結弦、来い」
僕は結弦の手を引っ張る。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
僕と結弦は暗くなるまで、訓練に励んだ。
尤も暗くなる前に、結弦はへばっていたがな。
「つ、疲れた…」
ふらふらと学食へと続く道を歩く結弦。
僕はしっかりとした足取りで歩いていた。
「副会長、何で、こんなに強いんだよ…」
「日々、鍛錬を怠っていないからだ」
「…そんなに強くなってどうするの?」
「SSSの連中と戦うなら、強さが必要だからだ」
「…俺、戦って欲しくないな」
「何だ、SSSのメンバーに絆されたのか?」
「い、いや!!そんな事はないよ!!」
あからさまに結弦がうろたえる。
僕に何か隠し事があるようだ。
「ほう、僕に隠し事とはいい度胸だ…」
「ないって!!」
「いいぞ、お前が隠せば隠すほど、僕は楽しめる…」
僕はにやりと笑った。
「いや、以前、落としたお金、拾ってもらったことがあるだけだ!」
「僕に黙って、SSSの連中と会話したのか、結弦…」
僕は結弦の首筋を指でそっと撫ぜる。
びくりと結弦の体が震えた。
「部屋で可愛がってやろうか…結弦…」
「いや、いや、いや!!副会長、本気でヤバイから!!」
「何だ、神の祝福がいらないのか?」
「俺、そんな趣味無いから!」
「そうか…この先、結弦が『抱いて下さい、お願いします』と僕に頼んでも、断っていいと」
「…え?」
結弦の目が点になった。
「そうか、そうか。確かに神に献身する者は清らかでなければならないからな。結弦はいい子だ…」
「あ、えっと、その…」
「結弦、この先ずっと、この世界でお前は清らかに暮らせ」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
結弦が泣きながら走っていった。
面白い男だった。
さて、学食に行くか。
見れば、走り去った結弦がまた戻ってきた。
「どうした、結弦。先に学食に行くんじゃないのか?」
「こんな暗い道、副会長1人にさせる訳にはいかないから」
結弦は僕の手を掴む。
そして。
「そういう意味で言ったんじゃないんだ…」
と言い訳を言い、しくしく泣きながら、僕と一緒に学食へと向かった。
理解不能な男だった。
昼の自動販売機の前。
副会長はいない。
生徒会の仕事で多忙だ。
俺は保健係の簡単な打ち合わせが済んでしまい、暇だった。
「はぁぁ…」
俺は盛大にため息を吐いた。
どうも副会長には主導権を握られる。
何とかこう、こちらが主導権を…。
『何か?神に反逆する気か?そうか、いい度胸だ、結弦…』
「駄目だーー!!想像しただけで、殺されそうだ!!」
「うわっ」
からん!
何かが落ちる音が聞こえた。
見れば、缶を拾おうとする青年がいた。
缶はころころと転がって、俺の足元に向かってきた。
「あ、ごめん。驚かせた」
俺は缶を拾う。
銘柄はKeyコーヒーだった。
「音無じゃん」
「え?」
俺は改めて青年を見る。
以前もここで出会った。
確か、名前は日向だったはず。
「偶然だな」
「あ、ああ…」
まずい。
SSSのメンバーとまた話をしていたなんて、知られたら…。
『ほぅ、僕よりSSSがいいと、いいだろう。そちらに逝きたければ逝け』
「あっさり捨てられるーーー!!」
「えっ?」
日向はきょとんとした表情で、俺を見ていた。
「あ、いや、何でもない。あ、コーヒー…」
缶コーヒーは落ちた衝撃でへこんでいた。
「ごめん」
「いいよ。飲むだけだし」
「悪いから、俺もコーヒー買うつもりだったから、買い直すよ」
「いいって…あっ」
日向は俺の顔をじっと見つめる。
俺は日向をよく観察する。
副会長と違って、どこからどう見ても、男だった。
「俺、これの趣味ないんだけど…」
俺は頬に手をかざした。
「ちげーよ!!」
日向は慌てて、否定した。
日向はこの仕草、理解できるようだった。
「ちょっと困った事が起きてるんだ。協力してくれると嬉しいんだけど…」
日向は本当に困った表情で俺を見ていた。
俺はコーヒーの件もあったせいか、話を聞く事にした。
俺は缶コーヒーを買って、日向に渡そうとしたが、日向は受け取らず、
結局、落ちた缶コーヒーを俺から受け取って、飲んでいた。
「実は球技大会に出るんだけどメンバーが足りないんだ。音無、出てくれないか?」
「ごめん、俺、保健係だから、球技大会は出れない」
というか、SSSに混じって、野球なんてしていたら、
この先、俺は副会長に殺され続けるだろう…。
「そうか…、残念だな」
日向は本当に残念そうな表情をしていた。
何だか申し訳なかった。
が、こちらも譲れないものがあった。
「あー、メンバー、どうしよう…」
日向は頭を抱える。
「いないのか、メンバー?」
「ああ。今のところ、俺しかいない…」
野球、無理じゃん。
「そこまでメンバーが足りないなら、出ない方がいいんじゃないか?」
「駄目。死ぬ」
「え?」
日向はがたがたと震えていた。
SSSもSSSで何かとあるらしい。
俺は今の生活に…。
『死ぬか、結弦?』
…一向に安堵を感じなかった。
どうして、副会長に惚れたんだろうか、俺。
各自、それに気をつけて、当日、無事終了させましょう」
生徒会室。
つらつらと出てくるくだらない言葉を吐き出しながら、
いつものように僕は生徒会副会長を演じる。
傍には結弦がいた。
結弦は熱心にNPCが作成した球技大会の資料を見ていた。
真面目な男である。
そして、会議が終了した。
「いよいよ球技大会だな、副会長」
廊下を僕と結弦、並んで歩く。
「ああ、お前の担当は保健係だ」
結弦が生前、医者を目指していた事を知っていた僕は結弦にそれを任命した。
「やっと俺、役に立てるんだな…」
「バカか、基本的には怪我をしても、すぐ治るんだぞ」
「じゃ、何のために、副会長は任命してくれたんだ?」
「…さあな」
「もしかして、俺の事、考慮してくれたのか?」
「いや、万が一、重病人が出て、困るお前の姿が見たいだけだ」
「…副会長、優しいな」
「はぁ?今のどこが優しいんだ?」
「俺、頑張るよ」
「頑張って、困れ」
「それは嫌だな」
結弦は困った表情を浮かべるどころか嬉しそうに僕を見ていた。
「さて、今日はもう仕事はない」
「学食に行く?」
「いや、訓練をしよう。SSSが銃撃戦を仕掛ける事もありうる」
「…あるのか?」
「僕には連中の思考回路はわからないからな」
とは言うものの、今回のSSSは恐らく、
ゲリラライブを仕掛け、球技大会そのものを潰すか、
球技大会にゲリラ参戦するくらいだろうと推測する。
だが、ゲリラライブはないはずだ。
NPCを惹き付けるボーカルがそう簡単に見つかるとは思えない。
そして、銃撃戦があるかというとそれもない気がする。
連中はNPCには手を出さない。
これ見よがしにNPCの前に銃を出す事はリーダー格の女が許可しないはずだ。
幸い、僕も結弦も連中にNPCだと思われているはずだ。
これから遂行する計画にはそれは必要不可欠だった。
「副会長?」
「喜べ、結弦、今日はみっちりお前を強くしてやろう」
「えー」
結弦は思い切り嫌そうな表情を浮かべていた。
そのような顔をされると益々、厳しくしてやりたくなった。
「結弦、来い」
僕は結弦の手を引っ張る。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
僕と結弦は暗くなるまで、訓練に励んだ。
尤も暗くなる前に、結弦はへばっていたがな。
「つ、疲れた…」
ふらふらと学食へと続く道を歩く結弦。
僕はしっかりとした足取りで歩いていた。
「副会長、何で、こんなに強いんだよ…」
「日々、鍛錬を怠っていないからだ」
「…そんなに強くなってどうするの?」
「SSSの連中と戦うなら、強さが必要だからだ」
「…俺、戦って欲しくないな」
「何だ、SSSのメンバーに絆されたのか?」
「い、いや!!そんな事はないよ!!」
あからさまに結弦がうろたえる。
僕に何か隠し事があるようだ。
「ほう、僕に隠し事とはいい度胸だ…」
「ないって!!」
「いいぞ、お前が隠せば隠すほど、僕は楽しめる…」
僕はにやりと笑った。
「いや、以前、落としたお金、拾ってもらったことがあるだけだ!」
「僕に黙って、SSSの連中と会話したのか、結弦…」
僕は結弦の首筋を指でそっと撫ぜる。
びくりと結弦の体が震えた。
「部屋で可愛がってやろうか…結弦…」
「いや、いや、いや!!副会長、本気でヤバイから!!」
「何だ、神の祝福がいらないのか?」
「俺、そんな趣味無いから!」
「そうか…この先、結弦が『抱いて下さい、お願いします』と僕に頼んでも、断っていいと」
「…え?」
結弦の目が点になった。
「そうか、そうか。確かに神に献身する者は清らかでなければならないからな。結弦はいい子だ…」
「あ、えっと、その…」
「結弦、この先ずっと、この世界でお前は清らかに暮らせ」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
結弦が泣きながら走っていった。
面白い男だった。
さて、学食に行くか。
見れば、走り去った結弦がまた戻ってきた。
「どうした、結弦。先に学食に行くんじゃないのか?」
「こんな暗い道、副会長1人にさせる訳にはいかないから」
結弦は僕の手を掴む。
そして。
「そういう意味で言ったんじゃないんだ…」
と言い訳を言い、しくしく泣きながら、僕と一緒に学食へと向かった。
理解不能な男だった。
昼の自動販売機の前。
副会長はいない。
生徒会の仕事で多忙だ。
俺は保健係の簡単な打ち合わせが済んでしまい、暇だった。
「はぁぁ…」
俺は盛大にため息を吐いた。
どうも副会長には主導権を握られる。
何とかこう、こちらが主導権を…。
『何か?神に反逆する気か?そうか、いい度胸だ、結弦…』
「駄目だーー!!想像しただけで、殺されそうだ!!」
「うわっ」
からん!
何かが落ちる音が聞こえた。
見れば、缶を拾おうとする青年がいた。
缶はころころと転がって、俺の足元に向かってきた。
「あ、ごめん。驚かせた」
俺は缶を拾う。
銘柄はKeyコーヒーだった。
「音無じゃん」
「え?」
俺は改めて青年を見る。
以前もここで出会った。
確か、名前は日向だったはず。
「偶然だな」
「あ、ああ…」
まずい。
SSSのメンバーとまた話をしていたなんて、知られたら…。
『ほぅ、僕よりSSSがいいと、いいだろう。そちらに逝きたければ逝け』
「あっさり捨てられるーーー!!」
「えっ?」
日向はきょとんとした表情で、俺を見ていた。
「あ、いや、何でもない。あ、コーヒー…」
缶コーヒーは落ちた衝撃でへこんでいた。
「ごめん」
「いいよ。飲むだけだし」
「悪いから、俺もコーヒー買うつもりだったから、買い直すよ」
「いいって…あっ」
日向は俺の顔をじっと見つめる。
俺は日向をよく観察する。
副会長と違って、どこからどう見ても、男だった。
「俺、これの趣味ないんだけど…」
俺は頬に手をかざした。
「ちげーよ!!」
日向は慌てて、否定した。
日向はこの仕草、理解できるようだった。
「ちょっと困った事が起きてるんだ。協力してくれると嬉しいんだけど…」
日向は本当に困った表情で俺を見ていた。
俺はコーヒーの件もあったせいか、話を聞く事にした。
俺は缶コーヒーを買って、日向に渡そうとしたが、日向は受け取らず、
結局、落ちた缶コーヒーを俺から受け取って、飲んでいた。
「実は球技大会に出るんだけどメンバーが足りないんだ。音無、出てくれないか?」
「ごめん、俺、保健係だから、球技大会は出れない」
というか、SSSに混じって、野球なんてしていたら、
この先、俺は副会長に殺され続けるだろう…。
「そうか…、残念だな」
日向は本当に残念そうな表情をしていた。
何だか申し訳なかった。
が、こちらも譲れないものがあった。
「あー、メンバー、どうしよう…」
日向は頭を抱える。
「いないのか、メンバー?」
「ああ。今のところ、俺しかいない…」
野球、無理じゃん。
「そこまでメンバーが足りないなら、出ない方がいいんじゃないか?」
「駄目。死ぬ」
「え?」
日向はがたがたと震えていた。
SSSもSSSで何かとあるらしい。
俺は今の生活に…。
『死ぬか、結弦?』
…一向に安堵を感じなかった。
どうして、副会長に惚れたんだろうか、俺。