日常に埋没する
日常に埋没する
殺してとアイツが笑うから、俺はその細い喉に指をかけた。
蟻を潰すみたいに、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、殊更ゆっくり、指先に力を込める。
自分の力が他人とは違うのを知っている。
殺すなら一気に首をへし折ってやることができる。
でも、そんな風に簡単に殺してはやらない。
生ぬるい。
そんな死は、こいつには似合わない。
もっとみっともなく涎を垂らしながら、泥にまみれながら、空気を求めながら、その曇った黒い瞳に俺を写しながら死んでいけばいいと思う。
ぽたり、ぽたりと髪から雫が落ちる。
外は雨。
俺もコイツもびしょ濡れだった。
いつもみたいに殺しあいをして、逃げる臨也を追って、捕まえて、自分の部屋に引きずり込んだ。
いつものことだ、そんなのは。
何も変わりはしない。
変化しない。
むかつくから殺す。
殺したいから殺す。
ヤりたいからヤる。
シンプルで分かりやすい。
アイツはそれに何も言わない。
表面上は面倒くさそうにしているけれど、いつも饒舌なはずの唇は、この時ばかりは引き締められたまま。
それは何年も何年も変わらず続いてきた。なので、こんな風に臨也が何かを願うなんて初めてのことだった。
それが殺して欲しいという自虐的な願いだとしても、純粋に叶えてやりたいと思った。
それだけの話だ。
下ろされた青白い瞼が震えている。
苦しいのだろう、開かれた唇から、掠れた息が漏れ、そこから覗く赤い舌に、視線をそらせなくなる。
気付けば、空気を求めて開かれたそれに、自らの唇を押し付けていた。
だらしなく弛緩した舌に、舌を絡めて、吸って、噛んで、乱雑なまでに口内を荒らす。
呼吸を奪う。
ぽたり、ぽたり、ぽたり。
雫が落ちる。
雨のように降り落ちるそれは、臨也の頬を流れて。
それが、まるで、コイツの「 」みたいで。
俺は。