チョコと戦争
「それじゃ、お先に失礼しますです!!」
思ったより掃除が長引いてしまった。
鞄を引っ付かんで慌てて教室までひた走る。
目的の場所はひとつ下の階、ひとつ上の学年の教室。
あの人はまだいるだろうか。
大切なものを守るようにぎゅっと鞄を抱きしめて、階段をひとつ飛ばしで駆け下りていく。
教室の扉の前で一端急停止し、乱れた呼吸を整えながら、ばくばくと速い鼓動を刻む心臓がまた違った意味で高鳴るのをミレイナは感じていた。
扉の硝子窓越しに中の様子を伺えば、紫色の後ろ姿を確認する。
ほっと安堵した反面、引き返せない状況に緊張する。
(頑張るです、ミレイナこの日のためにいっぱい頑張ったです…)
鞄を握り締める手に自然と力が入る。
大丈夫、いつもみたいに挨拶して、いつもみたいに話せばいい。
いつもみたいに…
よし、と自分を鼓舞して扉を開け、目的の人物に声をかけ、
「アーデさ……」
「済まないが、それは受け取れない。僕は甘いものが好きじゃないんだ」
何処か突き放す感を含んだ言葉。
自身に向けられたものではない、けれど、足を止めてしまう。
夕日が射し込む教室に二人きりというシチュエーション、説明するまでもない、ミレイナは運悪く告白の現場に鉢合わせてしまったようだ。
彼の目の前には一人の女子生徒が、俯いて立っていた。
両手には、綺麗に見栄えよくラッピングされた小箱。
告白すら受け取って貰えなかったそれが、小さく震えている。
(あ……)
それを見た瞬間、すぅっと冷たいものが頭の天辺から背骨を通って爪先まで下りていった。
耳が遠くなる感覚。
そうだった。
彼は、甘いものが、
「ミレイナ?」
大好きな、よく通る声が自分の名を呼ぶのを知覚して、目の焦点を合わせると驚いたような彼の顔、赤い瞳。
「な、な、なんでもないですぅ!!失礼しましたですぅ!!」
居たたまれなくなって、逃げ出した。
気がつけば、一階の階段下のゴミ箱の前。
震える手で鞄を開け、小さな包みを取り出した。
歪だけれども、作った人の努力が見て取れるそれは昨日の夜、先輩のフェルトと一緒にミレイナが作ったもの。
(ミレイナは、グレイスさんみたいにうまくできなかったです…)
手先の器用さを生かして丁寧にラッピングする様を見て、誰に渡すのかを聞いた所、彼女はピンク色の髪を揺らしながら微笑み、
「内緒」
と言った。
本当は知っていた。
彼女は立場上許されない恋をしている。
高校を卒業するまでは、絶対に周りに知られてはいけない、恋。
なかなか逢えないことも多くて、しんどいだろうに、それでも一途に。
(それに比べてミレイナは…)
彼の好き嫌いを把握していなかったばかりか、結局何も渡せずに逃げてきてしまった。
さっきの告白の場を思い出す。
可愛い娘だった。
恐らく中身は手作りだったろうあの小箱は、控えめだけれど丁寧に飾り付けられていて、自分のじゃ到底叶わない。
あの娘のを受け取ってくれなかったのなら、自分のも受け取ってくれる訳がない。
こんな自分じゃ、駄目だ。
「う…」
思ったより掃除が長引いてしまった。
鞄を引っ付かんで慌てて教室までひた走る。
目的の場所はひとつ下の階、ひとつ上の学年の教室。
あの人はまだいるだろうか。
大切なものを守るようにぎゅっと鞄を抱きしめて、階段をひとつ飛ばしで駆け下りていく。
教室の扉の前で一端急停止し、乱れた呼吸を整えながら、ばくばくと速い鼓動を刻む心臓がまた違った意味で高鳴るのをミレイナは感じていた。
扉の硝子窓越しに中の様子を伺えば、紫色の後ろ姿を確認する。
ほっと安堵した反面、引き返せない状況に緊張する。
(頑張るです、ミレイナこの日のためにいっぱい頑張ったです…)
鞄を握り締める手に自然と力が入る。
大丈夫、いつもみたいに挨拶して、いつもみたいに話せばいい。
いつもみたいに…
よし、と自分を鼓舞して扉を開け、目的の人物に声をかけ、
「アーデさ……」
「済まないが、それは受け取れない。僕は甘いものが好きじゃないんだ」
何処か突き放す感を含んだ言葉。
自身に向けられたものではない、けれど、足を止めてしまう。
夕日が射し込む教室に二人きりというシチュエーション、説明するまでもない、ミレイナは運悪く告白の現場に鉢合わせてしまったようだ。
彼の目の前には一人の女子生徒が、俯いて立っていた。
両手には、綺麗に見栄えよくラッピングされた小箱。
告白すら受け取って貰えなかったそれが、小さく震えている。
(あ……)
それを見た瞬間、すぅっと冷たいものが頭の天辺から背骨を通って爪先まで下りていった。
耳が遠くなる感覚。
そうだった。
彼は、甘いものが、
「ミレイナ?」
大好きな、よく通る声が自分の名を呼ぶのを知覚して、目の焦点を合わせると驚いたような彼の顔、赤い瞳。
「な、な、なんでもないですぅ!!失礼しましたですぅ!!」
居たたまれなくなって、逃げ出した。
気がつけば、一階の階段下のゴミ箱の前。
震える手で鞄を開け、小さな包みを取り出した。
歪だけれども、作った人の努力が見て取れるそれは昨日の夜、先輩のフェルトと一緒にミレイナが作ったもの。
(ミレイナは、グレイスさんみたいにうまくできなかったです…)
手先の器用さを生かして丁寧にラッピングする様を見て、誰に渡すのかを聞いた所、彼女はピンク色の髪を揺らしながら微笑み、
「内緒」
と言った。
本当は知っていた。
彼女は立場上許されない恋をしている。
高校を卒業するまでは、絶対に周りに知られてはいけない、恋。
なかなか逢えないことも多くて、しんどいだろうに、それでも一途に。
(それに比べてミレイナは…)
彼の好き嫌いを把握していなかったばかりか、結局何も渡せずに逃げてきてしまった。
さっきの告白の場を思い出す。
可愛い娘だった。
恐らく中身は手作りだったろうあの小箱は、控えめだけれど丁寧に飾り付けられていて、自分のじゃ到底叶わない。
あの娘のを受け取ってくれなかったのなら、自分のも受け取ってくれる訳がない。
こんな自分じゃ、駄目だ。
「う…」