チョコと戦争
視界がぼやけてきて、ごしごしと目を擦っていると、階段上から声が、
「何をしている」
…あからさまに肩が跳ねた。
「ああああアーデさん!?!?
い、一体全体どうしたですか!?!?」
「それはこっちの台詞だ」
とっさに捨てようとしていたものを後ろ手に隠す。
ティエリアは下まで降りてくると、縮こまるミレイナの前に立った。
「ミレイナ、僕に何か言うことはないか」
「ないです、ミレイナ、アーデさんに言うことも渡すものも何もないです!!」
明らかに目を合わせまいとして視線が泳いでいる。
慌てる余り墓穴を掘ってしまっていることに気付かない彼女に、ティエリアはひとつ溜め息をついた。
「僕に隠し事をするとはいい度胸だな。前言撤回、渡したいものがあるなら今渡せ」
「うぅう……」
元来、嘘や隠し事が大の苦手なミレイナは彼の強い視線に耐え切れなくなって、おずおずと隠していたものを差し出した。
何も言わない彼に、場を取り繕うように早口で喋る。
「お、お菓子会社の陰謀にわざと便乗したです、あの、チョコレートを作って、みたですが、あの、アーデさんが甘いもの嫌いだってこと、忘れてたです…いらないのなら、捨てるです」
言っていることが滅茶苦茶だ。これでは彼に呆れられてしまう。
ぎゅっと目を閉じて居心地の悪い空気に耐えていると、ひょいと手の平の上から包みの感触が消えた。
え、と呆けて彼を見るとちょうど包みを紐解いている所で。
「わー!! あ、開けちゃ駄目です!!きっと失望するです!!」
「何だミレイナ、贈られて受け取ったものを開けない奴が何処にいる。それに、失望するかしないか、決めるのは僕だ」
遂に現れたそれのひとつを白い指先で摘むと、何の躊躇いもなく口に放り込んだ。
ばきばきっ
「……」
「……」
「硬い」
「はい、です……」
「もの凄く硬いぞ。形も歪んでいるし、何だこれは」
「…っ、も、いいです!!食べらんないなら捨てるがいいです!!」
やけっぱちを起こして包みを取り返そうと躍起になる彼女に苦笑し、宥めるようにぽん、と頭に手をおいた。
「ありがとう」
「ぅ……」
「他の女の作ったものなんてさらさら口にする気もないが、」
― 柔らかく微笑んだ貴方は。
「君の作ったものなら食べてやらないこともない」
― とても綺麗なひとでした。
「あーで、さ……」
何か今、もの凄いことを言われた気が……
ワンテンポ遅れて、顔にかあっと血が昇る。
「君なら何か変なものを入れようとか、そんな所まで悪知恵が回らないだろうからな」
「む、むかーっ、ですぅっ!!
アーデさんたらミレイナを何だと思ってるですかぁっ!!」
そんな二人のやり取りを上の階段の踊場から見ている二つの人影。
クリスティナとフェルトだ。
「あれで付き合ってないなんていうんだから、末恐ろしいわね…」
「うん、でもこれからどうなるか楽しみだよね。あの二人」
「…本当に楽しそうね、フェルト」
end