マイリトルラバー
ヒールで絨毯を踏みしめる。私は倒れないし揺れない。だから、君から攫ってよ。吸い合うみたいに重なっていた瞳の声を、瞼を静かに下ろして塞ぐ。
来るなら今だけ、わかるだろう?
口角をちょっと上げる。いつだって、自信の滲み出すのが私。
うぶな震えなんかいらない。怖くなんか、ないんだ。
「後悔するなよ」
陳腐なセリフだねってからかってやりたいのに、腰を抱き寄せられたきり、私は動けなくなった。
「……わからないよ」本気、だってバレてしまうかな。こんな声。不安定に怯えはじめた身体。
「行くぞ」
優しいね。強張る身体を無理なく促すイギリスのエスコートは、頼る自分をなくした女にとても優しかった。
頷くしかできない私はちゃんと笑えているのかな。
せめて背筋を毅然と伸ばして彼にそっと身を寄せる。隙間のないところから嗅ぐ彼の匂いは、とっくに待ち焦がれていた私を潤すには十分で。
よろめきかけた腰を支えてくる腕の確かさに、後から噛みついてやろうと決めた。
ろくでもないけど、君がいい。