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赤に沈む

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振り払うように私は笑う。薄っぺらい仮面の顔に女は容易く騙される。女にするように、そのまま鋼のの唇を塞ぐ。無意味なこともわかっている。馬鹿馬鹿しい茶番劇。閨に誘うように硬く結ばれたままの唇を舌で撫ぜる。ふざけるなと怒鳴られて、殴られるのもいっそ清々しいことだろうとそう思った。だが、彼は殴りも逃げもしなかった。ただまるで時が止まったかのようにじっと静かに、微動すらもしなかった。金色の瞳の奥には何の感情も見い出すことはできなかった。怒りも驚きも、もちろん欲も何もなく。湖面のように私を映して、そしてそこにただ在った。その静謐さに気押されたのは私のほうだ。抱き寄せた身体を突き放す。機械鎧の足にでもぶつかったのか、ガタンと大きくベンチが鳴った。
「……冗談だ。君はもう帰りなさい」
逃げるように背を向ける。だが、鋼のは私のコートに手を伸ばし、そして強く握りしめる。
「わかった。いいぜ」
振り向けば、何かを決意したような強い光が私を見上げて。
「その代わり、交換条件。もう自棄になるのヤメロ。オレなら……オレならいくらでも付き合ってやる」
言葉を証明するかのように、今度は彼が、彼のほうから唇を私のそれに重ねてきた。

作品名:赤に沈む 作家名:ノリヲ