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予言の書

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「ごめん、大佐」
「鋼の?」
前置きも何もなく、エドワードはいきなりロイに向かって謝った。査定に間に合わなくても呼び出しに応じなくても、二か月も三か月もロイの執務室にやって来なくとも「仕方ねえだろ国中旅して回ってんだから」で済ませるエドワードが開口一番こう告げて、しかも頭まで下げている。
一体何があったのだろうか?鋼のがこんなふうに謝ってくるとはよほどのことをしでかしたのではないか?ロイは思いきり眉を顰めた。
「何をしたのか詳しく話してもらえないことには謝罪だけされても返答のしようがない。何をしたのだね?まずは詳しく報告したまえ」
「怒んねえ……?」
「内容によるが、まあ……大総統府を半壊した…などと言わない限りは譲歩はするよ」
「実は……さ、」
そう言ってエドワードはすっと一冊のノートを差し出した。

***

『昨夜は一晩中物音がかき消されるくらいの土砂降りだったというのに、今朝はそんなことが嘘のように澄み切った青い空が広がっていた。窓から見えるその空に、ぽかんと一つ浮かんでいる雲はあっちにフラフラこっちにフラフラと風に流されている。エドワードは寝起きのぼやけた頭のまま、背を丸めてその雲を無意識に目で追っていた。
もう何十年も前の昔、賢者の石を求めて旅をしていた頃は、目的のためにまっすぐ駆け抜けたように感じられたけれど、今から思い返してみればあの雲みたいにふらふらと彷徨っていただけなのかもしれないと。
けれど、そのさまよった結果の現在は、この空のように晴れやかだ。土砂降りの雨の後の晴れた朝。
うん、オレの人生ってかなりいいんじゃねえの?
起きたばかりの脳味噌はかなりの呑気さだ。エドワードはふあああああ、と間の抜けたあくびを一つして、それからうーんと背伸びをし、頭をポリポリと掻いていく。
それを見計らっていたかのようなタイミングで寝室のドアが開いた。そのドアから入ってきたのは同居人兼長年連れ添った恋人であるロイ・マスタング。
「やあ、おはようエドワード。今朝も君は綺麗だね」
ロイのこの手の発言にエドワードはすでに慣れきっている。とはいえ、明らかに寝とぼけてぼさぼさ髪に追加して口を大きく開けた顔を見て、きれいだねとは本当にアンタ、目が腐っているよな、とエドワードは冷たい視線を送ってみた。
エドワードのシラケ返った表情には目もくれず、ロイは身をかがめてエドワードを抱きしめた。愛おしげに唇にキスをしてくるのも既に習慣となっていて、今更赤くなったり動揺したりあわてて殴ったりなどしないのだが。とっさに対応できないのは仕方がない。何せエドワードは寝起きなのだ。ぼんやりとしたままエドワードは大人しくロイの腕の中に納まっていた。
「昨夜の嵐であまり眠れなかったのかな?風鳴りが煩かったしね」
ぼけっとしていたのは眠れなかったのではなくてアンタのセリフにあきれていただけだ。と告げようかと思ったが、それを言ったところで、無駄なことはわかっていた。だけど、黙ったままというのもロイの言葉を無条件で肯定しているようでそれも癪に障る。大げさにため息をついてからエドワードは低い声を出す。
「……あのさ、ロイ。いい加減その綺麗とかいうセリフ、やめねえか?」
眼ヤニも付いているってくらいの寝起きのボケた顔を綺麗と言うな。お世辞やリップサービス単なる習慣で言っているのであればまだ許せるが、この男は本心で、本気で、心の底からそう思い込んで告げくるのだからタチが悪い。というよりも、そんな馬鹿げたセリフを寝起きという無防備な状態で聞いてしまえば……隠していても嬉しいという感情がこみあげてきてしまい、もう本当にオレも馬鹿、もうガキじゃねえつうか人生の後半も後半、残り少ない余生つう時期になってもまだ、十代の頃と変わんねえのかよと自分自身にあきれてしまう。苦虫をつぶしたような顔でも作るしかないではないかとも思ったりするのだが。素直にありがとうというのはオレのキャラじゃねえし、何よりオレらは……とエドワードが思ったところで不満そうな声がロイから降ってきた。
「何か不都合でもあるのかい?君は可愛らしくてとても綺麗だ。毎晩毎朝一日中そう思っているからこそ自然に出てしまうのだがねえ……」
憮然とした表情になって、けれどエドワードがきれいだということは譲らんぞと、ロイは文句があるのならば聞いてはやるが譲れない線はあるのだが、と愛おしげに節くれてしまった手でエドワードの髪を撫ぜる。
「きれーもかわいいもねえだろ。いくらなんでも……」
エドワードはわざとらしくため息を繰り返す。が、ロイはめげることなくならば証明に滔々と語りだす。
「こうして抱いていると起きぬけの体温はいつもより少しだけ高くてまるで子供のようだしね。眠そうな目で見上げてくるのも、腕を私の背に回してキスを受け止めてくれるのも本当に可愛いな。君の金の髪は相変わらず朝の光を反射してキラキラと輝くし、寝ぐせのついた髪もなにやら無防備で、私の心を甘くさせるし、艶も感じられて何か誘われている気にもなるし。ああ、もちろん伏せたまつ毛もいいのだが、私はその金色が開いて私を見つめてくれる瞬間に幸福を感じるよ。こういう言葉にいつまで経っても慣れなくて、いまだに頬を赤く染めるのも、恥ずかしげに視線を逸らすのも可愛らしくてたまらな……」
「だあああああああああああああ!もホントにいい加減にしろ、アンタ!せめて二十年くらい前ならまだその発言は許容範囲だけどな、オレの年幾つだと思ってんだよ。ボケて忘れてんじゃねえだろうな!?」
流れるように告げられる甘い言葉に耐えきれず、エドワードは大声を出し、ロイの身体を押して、その腕の中から抜け出そうとしてみるが、わずかに空間が空いたのみで、ロイの腕の中から離れることができなかった。
「もちろん。わかっているとも。君のことでわからないことなどあるはずがないじゃないか」
何年一緒に暮らしていると思っているのだねと、にっこりとほほ笑んだ目元に寄っている皺が不思議と男前度をアップさせてるのは詐欺だよな、と一瞬惑わされそうになってしまうが、そこはぐっと堪えてエドワードは怒鳴っていく。
「わかってんなら改めろ。オレはもう六十になんの!じじいにかわいいもきれーもねえだろ、いい加減にしろアンタの眼は腐ってる」
エドワードは咎めるようにロイを睨み続けているけれど、やはりロイの厚顔はそんなことでは崩れはしない。エドワードの顎を持ち上げ、漆黒の瞳で見つめていく。さすがに髪にはもいう白いものが混じっているけれど、真っ直ぐに通った凛々しい眉も、きっちりと刻みこまれたような奥二重も、年を重ねたとて変わることない強い意志を兼ね備えた男がそこに在る。そんな瞳に間近で見つめられれば魔法にかけられたように動けなくなる。その魔法にかけられたのは十代の頃。もう解きようのないくらいその魔法はしっかりと根付いてしまっていた。
「六十だろうが七十だろうが関係ない。君はいつまでも美しい魂を持ち続けている。本当に綺麗だよ……」
作品名:予言の書 作家名:ノリヲ