ある日常の一コマ
それに驚いて、ジュリオの顔がぼっと赤くなる。車には運転手の部下が一人いるだけで、後部座席にはジュリオとジャンのふたりしかいないけれど、外でジャンからキスをしてくれるのは珍しい。
何よりジャンからのキスは嬉しくて、少し恥ずかしくて、頬が熱くなるのが押さえられない。
そんなジュリオにジャンは笑う。
「別に俺は怒ってねーし、気にすんな」
「で、でも…俺…」
「最近働きまくって疲れたよな。たまにはのんびりしようぜ?」
そう言ってシートの背もたれに遠慮なく背中を預けたジャンは手足を広げて「んー」と唸ると軽く伸びる。
そして運転手に車を止めるように告げると、ジャンはジュリオの手をとり車を降りた。
「あの…ジャン、さん…?」
「公園行って、アイスでも食うか」
「え…」
驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。
「なんだ、嫌か?」
「い、嫌じゃない、です。でも…」
確かこの後ベルナルドに報告に行くはずではなかったかとジャンを見るとそれが伝わったようでジャンは口を開く。
「後で電話すればいいさ」
そのジャンの言葉にジュリオはこくりと頷く。
どちらにしろ今日の仕事はこれで終わりで、ジャンはジュリオと住んでいるあの部屋に帰る予定だった。
「さ、デート行くぞ」
「で、デート…?」
ジャンのその言葉にジュリオは驚いてまた目を瞬かせるとジャンを見た。
「なんだよ」
少し恥ずかしそうにジャンが下からジュリオを睨む。
「あ…いえ、あの…俺…嬉しい、です…」
「…そっか。なら、行くぞ」
「はい…!」
繋いだ手はそのままに、ジュリオはジャンに諭されジャンより少し遅れて歩き出す。
手袋越しに伝わるジャンの温もりにジュリオは嬉しそうに目を細めて、少しだけ握った手に力を込めた。