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ある日常の一コマ 二コマ目

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ある日常の一コマ 二コマ目


…ジャンさんが、料理を作ってくれている。

キッチンで野菜を切るトントントンという規則正しくやさしい音がする。コンロの上には鍋があり、コトコトと弱火で何かが煮込まれていて、美味しそうな香りが漂ってくる。その香りはジュリオの鼻とお腹を刺激した。
慣れた手つきで作業をしているジャンを、ジュリオは邪魔にならない位置で床に座り、後ろから眺める。
ジャンはソファに座って待ってろというが、ソファのあるその位置からではジャンの姿が見えない。
ジュリオは少しでも長くジャンの姿を見ていたかった。だから「ここにいてもいいですか…?」とジャンに聞けば、苦笑しながら「しょうがねぇなあ」と頭を撫でて許してくれた。
だからジュリオは今、こうしてジャンがよく見える位置に座ってそれを眺めている。
本当は何か手伝える事があればいいのだけれど、卵を割ろうとすればボールの外に落ちてしまうし、力加減を間違って握りつぶしてしまうこともしょっちゅうだ。
ナイフの扱いになら慣れているからその要領で包丁も…と思ったら野菜を細かく切り刻みすぎたりして、結局何をやってもジャンの仕事を増やしてしまうだけで、足手まとい以外の何者でもない。

そんな不甲斐無い自分に比べ、ジャンはすごい。
限られた食材から、ジュリオが良く知っている食べ物を難なく作り上げていく。そして、どれもすごく美味しくて、ジュリオはジャンの作ったものが大好きだった。
それを心から伝えれば「これくらいなんでもねぇよ」とジャンは言う。けれど何を作ろうとしても失敗してばかりな自分からみればそれは魔法のようでもある。
ボンドーネ家お抱えのシェフのものは、見た目や味などどれをとっても最高級の一品だったけれど、ジュリオはそれよりもジャンが作ってくれたものが何よりも好きだ。
大好きなジャンの手料理を、大好きなジャンと一緒に食べる。そんな些細な事もジュリオにとっては大好きで、その時間がとても幸せだった。
誰かと一緒に食事をして、幸せを感じる…。ジャンとこうして過ごすようになるまで、忘れていた事のように思う。

「ジューリオー」

ふいにジャンの声がして、はっと我に返った。意識をジャンに戻して、「はい」と返事する。

「もうすぐできっから、皿の準備しといてくれ」