銀河
アメリカは眉をしかめて、首をすこしかしげた。「どういうこと」、と僕に聞いてくる。僕は、すう、と息をすって、「わかっていないから泣くんだ。君、なんだか自分が泣いている理由もわからないみたいだったから。それは悲しい、という感情で、君をそんな風にしたイギリスさんは、君ではなく昔の君を愛している。君はそれがとても悲しい。今の君を見てくれないことがかなしい。とてもとても。泣いちゃうくらい。昔のドアをあけてでてきてくれないことがとても悲しい。イギリスさんは、そりゃあ、今の君も大好きだけど、昔の君に、って、ことあるごとに言うのは、あの人には今の君と、昔の君と、ぜんぜん変わってないってことがわかってないから。わかってないことばかりだからすれ違う。ねえぼく思うんだけど、君とイギリスさんは根本的に対話が足りてないんだよ。そしてそんなこともわかってないから君はこんなところでどうしてどうしてって泣くの。歩み寄ることも、その方法も知らない。僕らを追い越していった人間たちは、多くの人が僕らよりも短い期間でそれをわかっていくよ。わからないことの方がずいぶん多いのに、でも、わかったことだけ、それだけで彼らには十分なんだ。……僕らが同じ形をしているのには、僕、訳があると思うんだけど。…君やあの人にわからないはずがないと僕は思うんだけど、ねえ、違う?」、とアルフレッドへ聞いた。アルフレッドは僕の声を、言葉を、目を白黒させて聴いていた。
「違う?」、と僕はもう一度アルフレッドへ聞く。アルフレッドは、ゆっくりと首をふって、それから静かに泣き出した。こんな寒いところで泣いていたら、いつか涙が凍ってしまうよ、と僕は笑う。いま、ずいぶん悲しいんだけど、とアルフレッドは言った。
僕はやっとわかったの、よかったねえとアルフレッドに言う。ああだから、本当にもう、君って馬鹿だよねって、そんなことまでいえたらよかったのにね。僕は口をつぐんで、代わりにもう一度よかったね、って笑っておいた。