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ある朝の出来事


ちゅんちゅんと囀る小鳥の鳴き声と、カーテンの隙間からさしこむ朝日で明日叶は重い瞼を押し上げて目を覚ました。
寝起きでまだぼやける視界に映るのは、何時もとかわらない自分の部屋の天井。
眠い目を擦り小さく欠伸する。ふかふかのベッドにまだ横たわっていたいけれど、再び眠りへと誘われそうで、明日叶は二度寝という甘美な誘いから逃れるべく、無理矢理身体を起こす。
が、隣でもぞりと動いた人物が腕を伸ばし明日叶の身体に絡めてくると、上体を起こしただけの明日叶の身体は再びベッドへと舞い戻る。
驚き、小さく声をあげながらベッドへと倒れた明日叶を腕に抱きこむようにもぞりと動くのは、恋人の中川眞鳥だった。

「ま、眞鳥さんっ」

照れと抗議の入り混じった声で名を呼ぶが、眞鳥は目を閉じて明日叶の髪に顔を埋めたまま、返事ともつかない声で小さく「んー」と唸る。

「あすか･･･、もう少し寝ましょうよ･･･」

掠れた声で眠そうに眞鳥が言う。低血圧で朝が得意ではない眞鳥はまたすぐにでも寝てしまいそうだ。

「駄目ですよ眞鳥さん、起きないと遅刻しますっ」

まだ時間的には余裕があるものの、シャワーを浴びて着替えて登校する準備をすれば時間などあっという間だ。

「オレは、別にそれでもいいですよう･･･」
「眞鳥さんはよくても、俺は遅刻なんてできませんよ！」

眞鳥は前に言っていた”留年”を本気でするつもりらしく、ここ最近は殆ど授業に出ていない。だから遅刻しても特に関係ないのだろうが、明日叶はそうはいかない。
眞鳥に付き合って自分まで遅刻なんてしようものなら、それが癖にだってなりかねない。明日叶まで留年するわけにはいかないのだ。

「アンタ、本当真面目ですねえ」
「別に真面目じゃありません」

くすくす笑う眞鳥に少しむっとしながら明日叶は言う。自分では当然の事を言っているだけなのに、そうやってからかわれるのは心外だ。

「明日叶、拗ねないでくださいよう」

機嫌を損ねてしまった明日叶に眞鳥は軽く頬にキスする。予想していなかった眞鳥の行動に驚いてびくりと肩を震わせて眞鳥を見ると、悪戯が成功したような子供の顔をして笑っていた。
それにすっかり毒気を抜かれて、明日叶も笑みをこぼす。

「眞鳥さん、本当に起きないと。シャワーも浴びないといけないし･･･」