あなたの外に。
「ありがとうございます」
「いやだから、それはこっちの台詞なんですけどぉ」
「私も、同じ言葉を口にしたかった。それだけ、ですよ」
薬売りの言葉が、ちりりと加世の心を焼く。
そんな音が聞こえたような気がした。
4
気づいては、いけない。
再び、薬売りはその言葉を、どこぞに居る加世に向かって願う。
薬売りである自分の姿に。力に。名前に。
普通は、疑問を抱かない。
疑問を抱いてしまえば。
思ってしまえば。次は。
それだけではない。
気づいていけないのは、そう、きっと互いの心にあるかもしれない、かすかな真にも。
「……ふ」
薬売りは、何の言葉も、こぼせなかった。
かわいた、ひびわれた笑い声が、のどから漏れ出ただけ。
歩いてしまえ。歩いてしまえば。
もうきっと、忘れてしまうだろう。
だが、別れ際の微笑んだ顔だけは、どう払おうとしても払えなかった。