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天使

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数日間、家には行かずに弦一郎から逃げた、携帯電話には弦一郎からの着信が数件。
精市は俺が弦一郎と向き合わないようになってから凄く怒っている、赤也からもお願いだから副部長の所にいって下さいと頼まれた。
それから俺は誰とも帰りを一緒にしなかった。
駅に一人は心細かった。辺りは鬱蒼としていて、静かで虫も鳴いていない。蝉の声もない。音がしない。これは夢かと思っていたところに誰かがやってきて、のお参謀、と俺の顔を覗き込んでそう言った。
「仁王か。」
「そんなにビクビクせんでもよか、俺はあいつらとは違うき、安心しんしゃい。」
仁王はふらっと俺の前に現われて一緒に帰ってもいい?ときいてきた。好きにしろ、と言うと俺の横にきて束ねた白い髪をいじりながら無言で数分がすぎる。
「何か用があるんじゃないのか?」
「別に、俺このあと真田ん家よるんじゃ。」
「お前、」
「怒るなや、俺はただたんに幸村のおつかいぜよ」
最近よくつるんでいると思っていた精市と仁王の理由はここか、と仁王から目をそらし。好きにしろ、と吐き捨てると仁王は少し歩きをはやめて俺の前に立ちはだかった。
「さんぼーには内緒だったんじゃが、真田から伝言じゃ。」
「なに…」
「もう、無理に来ようと思うな。じゃと。」
「それを、弦一郎が?」
「幸村には言うなって言われたき、やっぱ黙っとるんは真田が可哀想じゃと思っての。」
仁王は「そんだけの用事じゃ。…おまんの決める事じゃき、俺はなんも言わんよ。」といつも通り笑う仁王に少しばかり荷が下りた気分だった。
そう言えば、弦一郎からの着信は少なくなっていく一方だった、仁王が、じゃあの。と手をふろうとした時俺は仁王の腕を掴んだ。一緒にいく。と言うと仁王は真剣な顔をして。「うん」とだけ言った。
もう日は落ちて回りが暗い、泣いてもばれないだろうか。仁王なら黙っていてくれる気がする。
言い訳にしか聞こえないかもしれないが、俺だって辛かったのだ。弦一郎に会ってこいと言われるたびに弦一郎に会うのが怖くなっていた。

「遅くにスミマセン、真田くんに会いたいんですが。大丈夫ですか。」
仁王は慣れないような口調でおばさんに頭をさげるとおばさんはいつもありがとう、と仁王の頭を撫でて家にあげてくれた。
「真田ー?入るぜよ。」
ふすまを開けると布団の上に座っている弦一郎がこちらを見て目をまんまるにした。
「仁王!お前、無理に蓮二をつれてくるなど…!」
「怒りなさんなって、さんぼーは自分から来たいっていったぜよ」
「そ、そうか…」
この前みた時より、また少しやせたか。
俺は弦一郎を見るなりたまらなくなって抱きついた、今度は仁王が目をまんまるにした。俺が取り乱す所など弦一郎以外には見せた事がなかったから驚くのは当然かと思う。
「れ、れんじ…」
「ごめん、弦一郎。俺は臆病者だ、お前に会いたくなかった。向き合う事もできなくて…」
「お、おい、泣くな。男だろう、」
静かな部屋の中で俺の嗚咽が響く。みっともなくてもなんでもいい。
「まったくしょうがないのぉ、俺はここで退散するぜよ。」
「に、仁王、すまんな。」
「ええぜよ。」
弦一郎は俺の頭をなでながら仁王に声をかけると仁王は頭をかきながら部屋を出ていった。
「弦一郎。好きだ。」
「な…」
ずっと言えずにいた言葉を、俺はぽろりとこぼしていた。はっとして俺は目をしっかり開けて、弦一郎を見るとそこにはしょうがない奴だと、優しく笑う弦一郎がいた。
「俺も、好きだぞ」
いつも俺を見ていただろう、と弦一郎から詰問された時、俺は驚きのあまり直ぐ様反論を返すことが出来なかった。弦一郎の真っ黒い瞳が身動ぎなく問うので、怖かった、と言うのもあるがそれより何より、まばたき一つ瞼に落とせないまま、弦一郎の瞳を一応直視した形でいる。号泣しそうだった、余裕を持たない。だから俺は、何も言えなかった。今、俺の心を大きく揺さ振る混乱は俺が認識しうる限度を超えて、はるかに巨大だった。
「おい、蓮二?」
「す、すまない。ちょっと、まって。」
弦一郎の顔を見て泣いたのに、昔からの想いにも気付かれていた事に俺は動揺している。
「弦一郎は、俺の何をみて好きになったんだ」
質問に、質問を返す事は何より俺が嫌な事の一つだがそうせざるおえない。
どうして弦一郎が俺を好きになってくれたのか、それが気になる。そしてもしこの羽が生えるとすれば、俺に生えなくては納得いかない。
「夢を見たのだ、大きな羽がお前の背中から生えて、その羽がお前をくるしめていた。夢の中でお前は俺の名を呼んでいたのだ、俺の夢だからこれはうぬぼれかもしれんと思ったのだが。次の日からお前を意識すれば、お前は何かと俺を目で追っていたし。その瞬間目があうとお前はそっぽを向いてしまっただろう。あながちうぬぼれではないかもしれんと思った矢先また夢をみた。お前の元に羽がおりていく夢を。俺は数日前にみた夢を思い出してぞっとしたのだ。お前が苦しむ所はどうしても見たくなかった。だからお願いしたのだ、もしどうしても蓮二につくなら。俺が身代わりになると。」
「あの羽は、俺につくはずだったのか。」
「誰にでもできるものではないらしい。」
「じゃあ、それは俺の想いだというのか。」
「いや、想いだけは俺のものだ。」
弦一郎がその羽を負ってきた時から、ずっと俺は傍に居て、好きだ、と言えばよかった。何度となく、大好きだ、と言えば。
ばさりと音がして弦一郎は苦痛に顔を歪めた。
「弦一郎。」
「大丈夫だ」
だき支えられたまま、俺は弦一郎の背中に手を回して、そっと羽にふれる。
羽がめりめりと音をたてて弦一郎の背中を離れはじめた所らしい。弦一郎は俺に抱きついて痛みに耐えていた、額を伝う汗が俺の方におちて上着の色をかえる。
弦一郎、と呟くが返事は返ってこない。俺の背中にまわされた指が俺の背中にすこしだけ食い込む。それが返事らしい。
「もうすぐ、羽がとれそうだ。」
「ん…」
背中を見ているとゆっくりはがれていく羽の根元が少し赤くなっていた。
「頑張れ、弦一郎。ごめん、弦一郎。」
俺は痛みに耐える弦一郎をただ見つめている事しかできない、この想いを弦一郎一人に押し付けた罰だろうか。ただ、腕の中で頭をなでて頬にキスをする。そのたび俺を見て余裕なく笑う弦一郎が改めて好きだと思う。
羽が背中を離れて落ちた時、弦一郎は力つきて俺の腕の中で眠ってしまった。
俺は弦一郎の手を握り、横になった、これから俺たちは、本音と向き合い、現実と対峙し、事の愚蒙さと戦い、今一度自分自身と向き合う事になるだろうと思った。そうなるほどに、本気だった。抑えられない、胸の奥を熱く突く動揺と衝動を、これ以上封じ込めていられなかった。
幼い。年齢として幼かったし、当然心だってまだ、歳相応にしか働いてはいなかった。体も同じだ。俺たちはまだ幼くて、何も知らなかった。無知であった。それが、どういうことなのか、どういうことを意味するのか、俺たちには分からなかった。分かっていなかったから、躊躇わなかった。躊躇う必要を感じることが出来ないから。
作品名:天使 作家名:Rg