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大事な子供の誕生日

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毎年
誕生日には

総悟には甘かった
唯一の身内である姉が
色々な趣向をこらして祝ってくれたものだった

ある年には
大きなスイカを真半分にして
ケーキに見立ててのバースデースイカ
またある年には
朝起きてみれば布団の周囲一面に
ぐるりと迷路が書いてあり
辿って行けばプレゼント

弟を喜ばせる事を好んだ姉が
毎年しつらえてくれた様々なプレゼント
そのどれもが姉の思惑通り
年の離れた弟を喜ばせた事に相違なく

『良かったわ。総ちゃんがそんなに喜んでくれて。』

微笑む姉を見る事は
弟にとってもまた喜びで

武州の家に姉を残して
江戸へ出て来て幾年か
姉から月々に届く小包みには
毎年きちんとプレゼントまでが入っており
総悟の頬を緩ませたものだったが

今年は
その小包は届かない

姉を亡くして初めての夏

姉の祝ってくれない誕生日を
沖田総悟は初めて迎え

あぁ
そっか
姉上は

もう居ないんだっけと
空を見る

『総ちゃん』

あんな風に
自分を呼ぶ人はもう居ないのだと
普段は忘れているけれど
こんな日にふいに思い出す

そう言えばもう長いこと
『総ちゃん』

自分を呼ぶ声を聞いていないのだと

そしてこの先も永遠に
『総ちゃん』

あの声で自分を呼ぶ人は現れない




「・・・ちょっくら」




姉上んとこへ行くかな

総悟は言って立ち上がり
ふらりと屯所を後にした

江戸へ来て
そのまま病に倒れて逝った姉は
故郷では無く江戸の墓地へと葬った
その方が
少しでも姉が寂しくないからと
言い訳なのは自分で知れて
本当は
自分がこうしてすぐ会いに来られるからだと
解っているから苦笑する

「あ。金持ってくんの忘れちまったァ。」

ポケットに花を買う小銭くらいはあるだろうと
探ってみても金は無く
丁度通りかかった顔なじみ
万事屋の男にたかることに決める

「万事屋の旦那ァ。」
「よォオ。総一郎君。」
「総悟でィ。旦那ァ金貸して下せェよ?」
「はァ?オマエ。オレが金持ってるように見えるゥ?」
「見えませんや。けど貸して下せェよ300円でいいんで。」
「300円?まァなら貸してやんねェ事もねェけどォ?」
「ありがてェ。恩に着やす旦那。」

返す気など毛頭ない総悟だったが
そんなツモリはおくびにも出さず
銀時から300円受け取ると「どうも」と
ぴょこりと頭を下げて
それで一本150円の桔梗の花を2本買う

「何なにィ?花なんか買っちゃってェ?さては女ァ?」
「さすが旦那。よくご存じでェ。」
「エ?まさか、オマエ、ホントに女にィ?」
「へェ。ンじゃ旦那。オレ女待たせてるんで。」
「ちょォ!どんな女よォ?年上ェェ?!」
「当たりでさァ。飛びきりのいい女ですぜ?」
「ちょっ、ならオレにも紹介してェエ総一郎君?!」
「総悟です。」

たかった金で買った花
チョイと振り上げ別れを告げて
万年女日照りに見える男を置いてさっさと歩き出す

「つか。あの人もいい加減いいトシだよなァ。」

いい年こいて女の一人も居ねェんかよと
半分呆れて半分納得
いつ見てもやる気の無さそうなあの男では
女が寄って来ないのも道理かと
金を借りておいてありがたみも何も無く
通い慣れた墓地に足を踏み入れる




「・・・なんで」



アンタが居んでィ

低くなる声
剣呑になる瞳

シャツの袖を捲り上げて煙草を吸う男は
余計なところを見つかった、と
少しばかり目を眇めて煙を吐く

律儀な男は
墓掃除でもしたのだか
墓は綺麗に濡れて光っており側には桶とひしゃく
周囲の草も抜き取られてひとまとめに積まれ
花挿しには立派な花束と香る線香

「・・・コリャご丁寧に。ドーモ。」

思い切り
嫌味たらしく言葉を吐いて
自分の持って来たたった2本の桔梗を
腹立ち紛れにうち捨てると

「何しやがる」と尖る声

「何って。アンタがもう立派な花供えてんでしょうが。」
「だからって。持って来たものを捨てる事ねェだろうが。」
「別に。オレのよかアンタのが姉上も嬉しいでしょうよ。」

じゃァ
オレこれで

行きかけた総悟は
手首掴まれ引き戻されて

気が付けば
パシンと頬を張られて揺れて
ジンジンする頬押さえて見ると
座った瞳の鬼副長

「馬鹿かてめェは。こいつは」


うち捨てられた花拾い上げ
無残に折れた茎を取り
墓の正面小さく窪んだ水鉢へ
そっと手向ける花二輪

薄紫の
花二輪

「こいつは。最後までお前の事を一番気に掛けてた。」
「・・・そんなん。ナンでアンタに解るんでェ。」
「馬鹿。お前見てりゃ解る。」
「・・・何でェソレ?」
「大事にしてたんだよ。お前のこと。」

誰より
お前のことを一番大事にしてた

土方は言って
総悟を見下ろす

「お前だって解ってんだろうが。総悟?」





卑怯だ

総悟は思う




この男はいつだってこうだ
いつだって知らん顔して
気付かないふりで
人の心を掻き乱すのだ
こうやって
姉も
自分も




悔しくて
思い切り拳固めてどついてやった胸も
顔を埋めて泣いていれば世話は無い

近藤さん達が今夜は
盛大な誕生パーティ
開いてくれるらしいぜ?と
背中や頭を撫でながら言う男が心底憎い

きっとこの男には
その皆の厚意が嬉しくても
喜び切れない己の気持ちが伝わっているのが
解るから
憎い

自分が
本当に祝って欲しいのは
この墓に眠る人

この世でただ一人
『総ちゃん』と
あの優しい声で自分を呼ぶ人だけなのだから

シスコンと
笑いたきゃ笑え、と
沖田総悟が自棄になってしがみつく胸は
シャツにまで染み込んだ煙草の匂い

この男が姉に手向けてくれた線香の匂い
そして頭を撫でる掌




嫌いだ

思う




何処までも自分を甘やかすこの男は
姉と少しも似ていないのに
何処か似ているから
嫌いだ

姉を失った分を
この男で
埋めようとしてしまう自分が居るから
許せない

嫌いで憎くて殺してやりたい
どうしようもなく
許せない

心底憎い男の胸で
泣き疲れるまで泣いたあと
男の白いスカーフで
チーンと鼻かみ鼻水拭いて
さァ帰りますかとニコリとすると
お前は・・・と呆れた男が嫌そうに
鼻水まみれのスカーフを
取るのが楽しくまた
笑う






飲んで騒いで大はしゃぎ
姉の居ぬ初めての誕生日
沖田総悟は屯所中
皆から
もてはやされてチヤホヤされて
両手に余るプレゼント
抱えて自室へ戻る頃
日付けも変わろうとする真夜中に

ふと
鼻先を掠める
嗅ぎ慣れた匂い
顔をしかめて振り向くと
見慣れた男のしけた面

「・・・何でェ。」
「持ってやる。貸せ。」
「さては猫ババする気ですかィ?」
「馬鹿。要らねェよ。」
「安心ならねェなァ。」
「はァ?お前がだろ。」

二人して
プレゼントを運び込む部屋
閉めた襖

じいっと見上げる赤茶の瞳
それを見下ろす黒い瞳が
ふっと笑って口付ける




オレ
アンタからなんも貰ってやせんけどねェと
絡みつきながら言う声と
これからやると答える声と

夏の始まり
蚊帳の中

くんづほぐれつ絡まりほぐれ
また絡まって右左
夏掛け蹴飛ばし枕を蹴って
畳の上で泳ぐ夜
作品名:大事な子供の誕生日 作家名:cotton