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昭和初期郭ものパラレルシズイザAct.3

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「調理場は?大将、七夕の膳の書き付け持って来て?」
「半玉の子達も今日は笹飾りつけるの忘れないようにね」
「ほらそこ、床の間の花も今日は七夕向けに変えて」
「茶菓子もちゃんと季節のものに変わってるかい?」

つい昨日まで
寝付いていたのが嘘のように
臨也は実に細かくあれこれと店の一切を仕切り
しかしそうすると店全体が昨日までと違い
活き活きと輝き出すように見えて
静雄は目を見張る思いだった

「おや、これは旦那。今日は一番乗りで。ご贔屓に。」
「やぁ。しばらく顔を見んかったの別嬪さん?」
「おや?お上手言われても値引きはしませんよ旦那?」
「こりゃ参った。」
「フフ。まぁ旦那のお心持ち一つでなびく心もありますよ。」
「魚心あれば?」
「水心ありってねぇ旦那?」

華やかに艶やかに
スルスルと絽の着物の裾を引きながら
臨也は客を次々にあしらって
それぞれの部屋へ消えてゆく少年達と男達

かりそめの夢だよと
さっき臨也は笑ったけれど
ここにあるのは七夕よりも
儚い一夜の夢物語

金で買われて
金で縛って

そんな一夜の
借りの宿




昼にはあんなに活き活きと
瑞々しかった葉がしおたれて
枯れて丸まる夜更けになる程
赤々燃える宿の火に
飛び込む虫の
焼ける音
焦げた匂いが鼻をつく



「・・・ったく。因果な商売だな・・・。」

呟いて
首に止まった蚊を叩き

用心棒の静雄には
今夜も長い夜が来る



空の上には天の川



織り姫星と彦星が
会えりゃいいがと呟くと



へぇ
優しいんだねぇと
クスクスと
潜めた小さな笑い声

瞳を怒らせ振り向くと
空を見上げる白い顔
その細い首
細い腰
夏物の絽よりも儚げで
怒るつもりが見とれてしばし
微笑まれてから気が付く始末

「シズちゃんて」

無駄に優しいよね

言い捨てて
微笑み着物翻し
スルスル廊下を行く背中

畜生と
呟いたけどもう遅い

怒る相手は闇の中
手の届かない暗闇に
消えて


後には静雄だけ