二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

新羅が友達の披露宴で臨也に出会う話

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「どうしたのさ、新羅こそ雰囲気にあてられちゃった? 会社員や学生を勧められたのは、高校の進路面談以来だよ」
「うーん、僕も君と同じ職場なり学部なりになる人たちが気の毒だなーとは思うけどね。でも、口にしてみたら中々いいアイディアなんじゃないかって思えてきたよ」
「へえ、一体どのあたりが?」
 面白がって先を促す臨也の表情は、もういつもの底意地の悪い情報屋のものに戻っている。その顔にびびる付き合いでもない、新羅は臨也の赤い瞳とまっすぐ向き合って、つい笑ってしまった。これだけあくどい表情をしていながら、この男は誰よりも人間を愛していると自称しているのだから、本当に世界は歪んでいる。
「だって、この日本に暮らしてる人の大部分は、学校なり会社なりに行って平々凡々に暮らしてるじゃないか。君の愛する人間の本質を知りたいなら、街の裏側で反吐の出ることばかりしてないで、マジョリティーの中で生きればいいと僕は思うけどねぇ」
「新羅の発言の中で、俺の仕事がクソッタレだってとこだけは同意だね」
 臨也は軽く頷き、それからニッコリと華やかな笑みを浮かべた。新羅も、つい笑ってしまう。相変わらず臨也は昔のままだ。彼がこの、晴れ晴れとしすぎていっそ凶悪な笑みを浮かべる場面は決まっている。
 彼の中で太陽よりも熱く眩しく燃え続ける、人間への愛を口にするときだけだ。
「でも、俺は人類すべてが愛しいんだ。相手がマジョリティーだろうとマイノリティーだろうと分け隔てなんかしない。例外はシズちゃんぐらい。誰もが俺の友人であり恋人だよ。……そんな愛する人間のうち、できるだけ大勢と、深く、二十四時間年中無休で関わるためには、今の仕事は悪くない。俺の大好きな存在が、迷ったり、苦しんだり、憎んだりする様を、これほど間近で見つめて干渉できる生き方は無いね」
「……君ってば、もう」
 本来ならば、こんな言葉が臨也の口から出たら、この上なく毒々しく聞こえるのだろう。実際、反対隣の席の男は、必死に聞いていない振りをしながら冷や汗を流している。
 けれど、臨也の言動に耐性のある新羅にとってみれば、彼の口調にまぶされた毒など今さらだった。どころか、少しだけ、臨也が可哀想にすら思えた。
 確かに、誇らしげな言葉に嘘は無いのだろう。彼の人類愛が生半可でないことは、中学からの付き合いでよくわかっている。
 しかし臨也の中には、臨也自身も意識していない矛盾があるのだ。披露宴に新羅が到着してから、隣の目新しい人間を放って新羅とだけ話している臨也。人を陥れて破滅していくところを見物するのは大好きなのに、結婚という典型的な人間の幸福からは一歩引き、ただ眺めるだけに留める臨也。先ほどは、月並みな、だが欠けたところのない幸せを目の前にして、まるで子どものように無防備な表情でうっすら笑っていた。
 臨也は、彼自身が心身ともに磨耗していく「人間」だということを忘れている。
「……僕は、友人として、君がいつまでも新宿最凶の情報屋であることを祈ればいいのかな?」
 進学、就職、結婚。社会生活。人間関係。そういう地に足のついたものからわざと遠ざかって、そうやって君は一生を生きるのかな?
 感慨を見せるのは癪で、おおげさに呆れた顔を作ってため息を吐くと、臨也がいつものように反吐の出る表情で笑った。