眠れずに君を待っている
竹谷の自室に戻ると、久々知は何事も無かったかのように過ごす。
竹谷といえば、先刻抓られて仄かに赤くなった頬をさすりながら、何か言いたげに久々知を見ていた。
「早く寝間着に着替えたら」
「なんで怒ってんだって」
「疲れたんだろ?寝たらいい」
「だから…、」
普段より語調がキツい久々知に、竹谷は追求の句を述べようとしてそれは叶わなかった。
呆気に取られたようにして竹谷は久々知を見つめる。否、久々知しか見えない。
その場に馬乗りになられて顔中に口付けを落とされれば、竹谷は正気を取り戻すことも忘れて久々知を目で追う。
「…寝たら」
「…この状況でか」
「逆に起きちゃう?」
「親父くさ」
「ははっ」
漸く状況を把握した竹谷に構わず久々知の口付けは終わらない。
今度は竹谷も応えるように目を瞑ってやると、サラリと美しい黒髪が二人と外の世界を遮断するようにしなだれた。
「すまん」
「ん…」
「寂しかったんだろ」
「寂しくなかった」
「相変わらず天の邪鬼」
「ハチが悪い」
「そうだな、ごめん」
竹谷は愛おしげに久々知の頬に触れる。それに応えるように久々知もすり寄ると、竹谷はそのまま起き上がり天地を逆転した。
「ごめんな」
「…ん…も、いいよ…」
「眠い?」
「ハチこそ眠くないの?」
「兵助が目の前に居るのに眠れるか」
「ははっ、ケダモノ」
「もう黙って…」
「…っ…ふ、んぅ…」
「眠くても寝かせない…」
「…、うん…」
寂しさを埋めるように久々知は竹谷に抱きつく。
そのまま二人は口付けを深めていった。
了
作品名:眠れずに君を待っている 作家名:みそさざい