絆の保証
夥しい赤。
暗く湿った地面を彩るにはなんとどす黒く色彩の無いものか。
足取り重く赤い地面へ膝を突く。その広がる血液の中に倒れるのは、尾浜の横に佇む少年と同じ顔をした少年。
近寄ってまだ温かいその体を抱き胸に耳を当てる。その視線の先には顔色を無くし、真っ赤に染まった片手には苦無を下げ此方を見下ろしている少年。
「何故待てなかった!」
「…希望が無かった」
「私達が来ることを信じられなかったのか!」
「…」
「答えろ!雷蔵!」
尾浜は立ち尽くすように固まった少年―不破に近寄り胸倉を飛びかかるようにして掴んだ。そして渾身の力で横っ面を張る。鈍い金属音と共に苦無が落ち、血で染まった不破の右手がまだ固まっていない鉢屋の血液を転々と落としていく。雨音は遠くに聞こえた。
「雷蔵!」
「…帰れ…ないなら……二人、で…死のうって…約束したから…」
「…」
「でも……三郎は…僕を…殺せ、なか、た…っ…」
「…大馬鹿者…」
尾浜は苦々しく、無表情で涙を流す不破の服を離し、再び鉢屋へ近寄ると着物を割いて傷口を露わにした。
「鉢屋はまだ生きてる」
「…」
「お前だって殺せなかったんだよ」
「…!」
あるだけのものを使って止血を試みながら淡々と述べる。庇うつもりも慰めるつもりも無かったが、ただ表情無く号泣する友人が哀れでならなかった。まるで出来の良すぎる子供のように泣くから。放っておくことが出来なかった。
「好きならちゃんと二人で生き延びろ!」
「…勘右衛門…」
「三郎!雷蔵!」
「勘右衛門も着いてたか」
尾浜の声が響き渡る洞穴に、二人以外の声が響いたのはその時だった。
「八左ヱ門、兵助」
「…兵助、雷蔵頼む」
「あぁ」
「まだ息がある、止血はしてるが…」
「増血剤を持ってる。あと布もな」
影の淡く射した方へ視線を向けると、息を切らせた竹谷と久々知がいた。二人とも塗れ鼠でさんざん探し回っていたことを示している。
しかしこの状況を見ても狼狽えることなく行動を起こす二人に、尾浜は軽く笑みとも知れない笑みを浮かべた。見れば外も豪雨が嘘だったかのように陽が差し込んでいる。
どうやらこの賭は自身の勝ちだったようだと尾浜は密かに思った。
了