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ベリーメリー

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 山ほどあった食材は、またたく間になくなった。
 「はー、うまかったー!」
 台所での後片付けを終え、リコの部屋に戻ってきたときの小金井の叫びは、全員の気持ちを代弁していた。
 「みんな、よく食べたわねー」
 リコは楽しそうに笑う。もちろん、準備と同じく片付けも免除された身である。
 「育ち盛りだからねえ」
 落ち着いた口調で、土田が言う。
 「あ、でもおやつは別腹! みんな、持ってきたもの出しちゃえ!」
 「よく食べるわね……」
 小金井の声で菓子袋が次々と姿を現すのを見て、リコは呆れて首を振った。
 「そういやコガ、ゲーム持ってくるとか言ってたろ」
 伊月にうながされ、小金井がぽんと手を打つ。
 「そーそー! ちゃんと持ってきたもんね!」
 「遊ぶことには手を抜かねーよな、コガは」
 日向に揶揄されても気に留める様子もなく、小金井はふたたびいそいそとバッグを開けた。
 「コレとコレと、あとコレも……あっ」
 取り出されるゲームソフトとともに小瓶が落ち、ごろごろとリコの足元まで転がってゆく。
 「あっ、バカ、コガ!」
 日向が立ち上がり、小金井も顔色を変える。
 「うわ、カントク、それダメ!」
 「……胃薬?」
 瓶をつまんだリコが顔を上げると、青ざめた小金井と目が合う。他は全員目をそらしている。
 「どうやらみんな、後ろめたいことがあるみたいね?」
 差し当たり、リコの視線に怯えて冷や汗を垂らしている小金井に詰め寄る。
 「や、それ持ってんのオレだけじゃなくて!」
 リコの眼差しに耐えかねたように、小金井は自白した。
 「うわ、きったねーぞコガ!」
 「こーなったらみんな巻き込まれようよ!? みんなで怒られようよ!?」
 小金井はせわしなく左右を見渡す。
 「テメー……」
 うつむいた部員たちから、非難がましい呟きが洩れる。
 「小金井君への恨み節はさておいてもらうとして、」
 リコはいったん言葉を切り、たっぷりとプレッシャーをかける。
 「……どういうことなのか、説明してもらいましょうか?」
 ――重い口を開いた一年男子によると、合宿で料理における大胆さの片鱗を見せたリコがケーキ作りに挑戦している、と彼らがうすうす勘づいていたのは、先ほど日向が告げたとおりだった。が、日に日に増すリコの負傷と彼らの危機感は比例しており、もしケーキが完成したとしても、彼らは幸せになれないであろう、との見解が一致した。(伊月はそれを「メリークルシミマス」と表現し、日向に容赦なく斬り捨てられていた)
 そこで誠凛高校バスケ部一年男子部員は、ケーキを食べられない理由を作るべく鍋の材料を大量に買い込み、万が一リコに食べることを強要された場合に備え、胃薬も持参したのであった。約束の時間より早く集合したのも、少しでもケーキの完成を阻止できたら、という思惑のもとだったという。
 「それとなく、やめる方向にみんなで話を持っていこうとしたんだけど」
 「うまくいかなかったみたいでさ」
 「あ、でもケガを心配してたのはホントだよ」
 口々に説明する部員たちに、日向が続ける。
 「けどカントクががんばってんのに、一方的にやめろっつーのも悪ぃだろ。だからオレら、ある程度の覚悟を決めてここまで来たってワケ。でも、やっぱ謝るわ」
 『スミマセンでした!』
 全員が一斉に頭を下げた。
 「もう!」
 怒りをにじませたリコの声に、一年男子の面々は打たれたようにうなだれた。
 「……そんなふうに言われちゃ、怒れないじゃない」
 声色と表情をやわらげ、リコは苦笑する。
 「いーわよ、今年のことは水に流すわ。もう謝るのはナシね!」
 「カントク……」
 「みんな、なんて顔してんの。さあ、今夜は無礼講! ホラ日向君、とっとと乾杯の音頭取る!」
 リコに元気よく指名された日向は、「お、おう」と紙コップを手に取る。
 「じゃ、来年の誠凛高校バスケ部の躍進を祈って、てか躍進させるんだけどな!」
 『カンパーイ!』
 「有望そうな後輩がたっくさん入ってきますように! あと、来年こそおいしいケーキ食べさせてあげるからね!」
 「いや、ソレは気持だけで」
 「ちょっと、どーゆーことよ!」
 年末の夜は、なごやかに過ぎていった。
作品名:ベリーメリー 作家名:ゆふ