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ピンポンと言うチャイムの音に続いて、ドンドンと乱暴にドアを叩く音に、無理矢理意識が浮上させられる。
慌てて玄関まで向かい、施錠を外すと同時に外側に居る誰かの手によって扉が乱暴に開かれる。

「佐藤君…今何時だと思ってるの」

眠い目を擦りながら、仏頂面の佐藤君を軽く睨む。
ただ今の時刻、夜中の二時。
皆が寝静まるこの時間に、あんな大きな音を立てて近所迷惑もいいとろこだ。
明日苦情が来たらどうしてくれる、と言ってやりたい気持ちをぐっと抑え、とりあえず中に入るよう促す。
すれ違った彼を纏うアルコールの匂いに、鼻の奥がつんと刺激される。

「ちょっと、どんだけ飲んだのさ」

軽く鼻を摘まんで、水を汲むために台所へと足を向ける。
佐藤君はと言えば、自分の家の様にどかっと座り込んでいた。
はぁと溜息を吐き、佐藤君の元へと足を運ぶ。

「はい、どーぞ」

そう言ってコップ一杯の水を差し出すと、無言でそれを受け取り一気に飲み干した。
その様子を半ば呆れ顔で見ていた俺は、彼がこのような状況になった理由を自分なりに探してみる。
…いや、探す必要はない。
彼がここまで酷く飲む理由は、ただ一つ。

“轟八千代”

彼女しか考えられない。
大方また彼女の惚気話を聞かされ、限界点を突破してしまったのだろう。
しかし、それでも優しい彼は何を言うでもするでもなく、ただひたすら我慢してやけ酒を飲んだ。
その様子が一部始終頭に浮かんできて、思わず苦笑する。

「佐藤君、いい加減告白したら？」

案外上手くいくんじゃないかな？と軽く茶化すように笑う俺に、佐藤君が少しぴくりと反応するのが見てとれた。
すると、もう一杯水を汲んでこようと立ちあがる俺の腕を、佐藤君が驚きの速さでがっと掴んできた。
予期せぬ行動にびくっと軽く身体を震わせ、驚きに目を見開かせる。
佐藤君は俯いていて表情が読み取れない分、彼の行動が少し恐ろしくも思えた。

「佐藤君、どうしたの？」

震えそうになる声を必死に抑え、いつも通りの声音で問いかける。
すると、佐藤君がぽつりと何かを呟くのが耳に届いた。

「え？何？聞こえな、」

何を言われたのか聞き取れなかった俺が問い返すより先に、佐藤君が俺の腕を強く引き、硬い床へと乱暴に俺を誘う。
強かに打ち付けた背中に少しだけ顔を歪めていると、眼前に佐藤君の整っている、女性であれば恐らく見惚れてしまうであろう顔が迫っていた。

「え、さと、」

彼の名を呼ぼうとした矢先に、その口を封じられてしまう。
押しあてられる人の温もりに、驚きを隠せない。
それが、目の前の彼のものであるということが、更に混乱を招く。
俺は今彼にキスをされている、だけど、その理由がわからない。
どうして、なんで、どうして？