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裏表ラバーズ

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その日曜日、いつになく善弥は機嫌が良かった。
 いつもの鼻歌交じりに、姫谷が用意した朝食のパンケーキをほおばっている。
「学園祭、楽しかったねぇ〜」
 と、二週間前のことを振り返る。
 姫谷としては、コスプレ喫茶などというところでさんざんな目にあった厄介な思い出だ。
「今日はね、キタニー、一緒にお出かけするよー」
 ふんふん、と善弥はいかにも楽しそうだ。
「はぁ、私は別にかまいませんが……」
 フライパンを片づけながら、姫谷が返答する。善弥の気まぐれはいつものことだし、機嫌がよいのならそれにこしたことはない。
「映画見て〜、ご飯食べてね〜、それからお買い物して〜」
 今日一日のプランをそうして善弥が嬉々として話す。
「では、ショッピングモールにでも出かけますか?」
 郊外にあるショッピングモールには確かシネコンも付いていたはずだ。善弥がなんの映画をみたいのかまでは知らないが、大抵のものは上映しているだろう。今日一日は、いつものように運転手役だ。
 エプロンをはずし、自分も朝食の席に着く。朝食を食べ終えた善弥はコンポでお気に入りの洋楽を聴いていた。ブラックのコーヒーを啜りながら、のどかな朝だ、と姫谷は思う。
「んー、それでもいいけど俺今日は電車乗ってみたーい」
「はぁ……しかし」
 却ってそれでは遠回りだし、何より荷物持ちは自分の方になるだろうから、むしろ手間が増える。そう思いやんわりとその提案を姫谷は断ろうとするが。
「俺がそうしたいのー」
 善弥は自分の主張が通らないと、臍を曲げる。それくらいならばまだいいほうで、機嫌が悪いと一言で言って、キレる。それはもう、ぷっつーんと。だから、下手なことを言って善弥の機嫌を損ねてはならない。
「はぁ、わかりました……」
「じゃ、決まりー」
 朝食を食べ終えた食器を片し、出かける支度をする。善弥はやはり機嫌よさげに服を選んでいて、クリスティーにサラダの余りの葉をくれてやった後、ピンクのカーディガンを羽織っていた。

 電車を乗り継いで、小さな劇場に入る。売店で、ポップコーンとジンジャエールを買い込んだ善弥は意気揚々と席に座りこみ、映画を堪能することにしたようだ。映画の内容は……善弥の好みそうな、シュールなアクションがメインで正直な話、姫谷にはその展開についていけなかった。が、善弥のほうは満足してくれたようなのでよしとしよう。
作品名:裏表ラバーズ 作家名:黄色