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裏表ラバーズ

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「あー、おもしろかったね。ねぇねぇ、キタニは何食べたい?」
「なんでも結構ですよ」
 山の手の内側、街を歩けば何でも食べられるだろうし、デパートのレストラン街に入ってしまうという手もある。
「じゃあ俺、洋食がいいー」
 あえてガイドには頼らず、ふらりと裏道に入ると、都合よく洋食屋と喫茶店を兼併した様な店が見つかった。妙に空いてるのは時間帯のせいだろうか。店の外に出された黒板の手書きのメニューと、カウンターに並ぶ酒瓶から察するに夜は簡素なバーにもなる様な店なのだろう。席に着けばウェイターが手際よく水とおしぼりを運んで来た。
「なんにしよっかなー」
 メニューの表を開きながら、機嫌良く指でそれをなぞっている。
「なんでも、お好きなものをどうぞ」
 善弥が機嫌がいいのならそれでいい、と姫谷は思う。
「キタニは?  ねえねえ電車で来たから、お酒も飲んじゃおうか」
「坊ちゃんは未成年ですよ」
 人のことは言えた義理ではないが、やはりけじめはけじめだ。キタニは善弥を窘める。
「もぉ〜、キタニ、俺のこと子供扱いして〜」
 口をとがらすが本格的に怒っているわけではないようなのでほっとする。
「じゃあ俺ハンバーグ」
「では私はカレーを」
 二人ともむろん酒入れず、先ほど見た映画の感想を楽しそうに善弥が嬉々として話すのを姫谷が聞きながら食事を楽しむ。
 食後のコーヒーを姫谷はブラック、善弥はミルクと砂糖をたっぷり入れたものを楽しんで、二人は店を出た。

「あとはー、お買い物ー」
 そうしてデパートに向かい、いつものように気まぐれに善弥が色々買い込むのだろうと思っていた姫谷だったが予想が外れた。珍しく、善弥は紳士服売り場をのぞいている。それも、ネクタイやジャケットを見つくろっては『なんか違うー』と呟いている。いつもの善弥の趣味で選ぶような服ではない。
「なにか……フォーマルなものをお探しで?」
 善弥は制服でさえきちんと着ないことで駒波学園では有名だが、なんの気まぐれだろう。
「うーん、そういうわけじゃないんだけどねー」
 そうしてフロアを行き来する。
 そのうちに、冬物を取り扱ったエリアにたどりついて、
「あ」
 と善弥は声をあげた。
 まだ早いが、手袋ならそろそろ入用になってくるだろう。
 やっとピンとくるアイテムを見つけたようで、うーんと唸りながら何がよいかを検討している。
作品名:裏表ラバーズ 作家名:黄色