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アクアリウム

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「水族館?」
 訝しげに、哲雄が訪ねてくる。
「試験休み……あるだろ。もし、暇なら一緒に、って……」
 勇気を出しての告白。
 中間テスト(哲雄に勉強を教えてもらってから少しは成果が出たと思う)が終わり、その試験休みが明日に迫っていた。
「やっぱり急、だよな、ごめん、変なこと聞いて」
 無言の視線に拒否を感じ、蓉司は提案を取り下げる。
「別に」
 低く囁くような声。甘い匂いが心地いい。
「別に、暇だからいいけど」
「ホント、か……?」
 ほっと、胸を撫で下ろす。
「……人ごみ」
 ぽつり、と哲雄が呟く。
「人ごみ、大丈夫か? 前に行った時はそれで気分悪くなっただろ」
 哲雄とともに水族館に出かけるのは初めてではなかった。
 同じような提案をして、なぜか睦と善弥が付いてきて。しかし日曜の水族館は人ごみで溢れかえっていてすぐに蓉司は気分が悪くなってしまい、哲雄に介抱されることになった。
「平日だから、そんなに込んでないと思うからだいじょうぶ」
 だから、試験休みのこのタイミングを使おうと思ったのだ。
「できれば今度はその……二人っきりで」
 皆で出かけるのもそれはそれで楽しいものだけど。哲雄と、二人の時間を共有したかった。
「構わない。待ち合わせ、どうする?」
 どうしよう。今からすでに逸る鼓動が止められない。
「じゃあ、10時に××駅のホームで」
 路線は同じだ。乗り換えに使う駅を待ち合わせ場所にしよう。
「わかった」
 短く、哲雄がうなずく。やっぱり綺麗だ、と蓉司は思った。
 昨夜は正直、興奮と期待であまりよく眠れなかった。
 その割に不思議と体調の悪さを感じないのは、哲雄と会えるというそれが今の自分を動かす原動力になっている気がする。
(本……よんでる)
 眼鏡をかけたその横顔を見つけ、思わず見とれそうになって――
「ごめん、待たせたか?」
 声をかけた。
「いや」
 二人、並んで歩きだす。平日とあって幸い二人とも座席に座れた。いつかのように哲雄にかばわれるようにして立つはめにならなくてよかった。
 学生二枚の券を買って(哲雄が学生に見られなくて学生証の提示を求められていた)、チケットを切ってもらう。
 薄暗い室内に、熱帯魚の群れが出迎えてくれる。
「あ……ネオンテトラだ」
 自宅で飼っているのと同じ種類の魚を見つけて、思わずそちらに移動してしまう。
作品名:アクアリウム 作家名:黄色