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アクアリウム

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 この広い水族館で見物するにはあまりに狭い水槽を見つめていると
「魚……好きなんだな」
 哲雄に声を掛けられた。しまった、うっかりはしゃいでしまった。
「うん……なんだか見てると落ち着くっていうか」
 苦し紛れにガイドブックをぺらぺらとめくりながら、蓉司は呟く。魚は好きだ。閉じた世界の中生きるモノたち。どこかそれは自分の影に重なる。
 ペースを落として、哲雄の隣に並んで歩く。
 魚を見るよりも何となくその横顔が気になって、水槽の説明が頭に入ってこない。
 段差のあるところを歩くと、哲雄のウォレットチェーンがチャリと音を立てた。
「城沼……」
 不意に、声をかけてしまった。何があるわけでもないのに……なんとなく……
「どうした?」
「いや、ごめんなんでもない」
 浮かんだ考えを振り払うように、あわてて否定する。
 手を……つなぎたいと何となく思ってしまったのだ。
 あまりにも突然に浮かんだ考えを否定するように上を見上げる。大きな水槽を自由に泳ぐ魚。
 見ているつもりで、見られているのは実はこちらの方ではないかとガラス越しにそんな不思議な気分を抱かせる瞼の無い瞳。
「昼飯、どうする?」
 ガイドブックをめくりながら、哲雄が訪ねてくる。
「あ……そんなに空いてないからフードコートで軽いものでいい、かな……」
 いつの間にかそんな時間になっていたのか。
 と、いうか何か作って持ってくればよかっただろうか。今さらながらに気づいて蓉司が落ち込みそうになった時。
「……ん?」
 さらに、追い打ちをかける事態があった。
 ぺらぺらとガイドブックをめくる。まずい。
「ごめん城沼、先行っててくれ」
「どうした?」
 最悪だ。
「チケット、落としちゃったみたいだ……探してくる」
 あれがないと再入場ができない。
 踝を返そうとしたところで。
「どのへんだ? チケット、パンフに挟んでたのか?」
 自然に、哲雄が付いてきてくれる。
「い、いいよ。俺がうっかりしてただけだし……」
 手を振り、あわてて否定するが。
「来た道逆に戻ればどっかに落ちてるだろ」
 逆に哲雄のほうが先に行ってしまう。
 順路を逆にたどりながら、今度は水槽ではなく床を注視して――
 見つけた。一枚のチケット。
「俺の番号と連番になってる」
作品名:アクアリウム 作家名:黄色