オアシス
*サモンナイト2 番外編 誓約者ルートED後 サイジェントから帰る前のとある一日の話
・・・本来、騒がしいのは嫌いなタチだ。
ずっとそう思ってきた。
だけど、
中には、”嫌いじゃない騒がしさ”も、あったと。
最近は少し、そう思えるようになってきた。
だけど
――――・・・早く、離れないと。
夢から覚めないうちに。
「あ、おはよう、ネスティ」
「昨日また遅くまで調べ物してたみたいだな、無理すんなよ」
「朝ごはん、できてますよ」
居間に顔を出した途端、あちらこちらから次々と掛けられる声。それに答えながら、彼は合間を縫ってようやく自分の本題を切り出せた。
「すまない、誰かマグナを見ていないか?」
数人が顔を見合わせて次々に首を振る。
「そういえば朝から見てないですね」
「いつもなら腹減ったとかって出てきてもおかしくない時間なのにな」
「あいつならさっき見かけた」
ボソ、と横合いから口を挟んだのはガゼルだ。
「どこで?」
ひょい、と庭を顎でしゃくって見せる。
「庭にいたぜ」
「ありがとう」
「ネスティ、ご飯は?」
「後でいただくよ」
そう言い残して食堂を後にして、庭に抜ける裏口へと足を向けた。
今は皆食堂のほうに移動してしまっているらしく、廊下ですれ違うものはいない。
ふ、と一つ息をつくと、肩から力が抜けた。
何となく、本当に何の気なく皆の前で息をつめてしまうこの癖がまだ抜けない。・・・だが、ここにいる間はだいぶ収まっているような気がするが。
長年、そう線を引くことでしか、人との距離を測れなかったから。
ここでは、それは不要だ。
不要なんだと、自分自身にすら思わせる何かがあった。
・・・不思議な所だと思う。
裏口から外絵御覗くとちょうど死角になる壁の向こう辺りで人の気配がする。
「――――マグナ?」
呼びかけながら近づいていくと蹲っていた影が不意に立ちあがって振り返った。
「あれ、ネスティ?」
「――――トウヤ?」
振り向いたのは、このフラットの住人の少年だった。巻き割りをしていたらしい手を止め、穏やかな笑顔を向けてくる。
「何か?」
「マグナを庭で見たと聞いたんだが・・・」
「ああ、うん。釣りの道具を貸してくれって言われたから・・・」
「釣り?」
「アルバたちと一緒に。結構前に出て行ったから多分もうすぐ帰ってくると思うけど」
答えながら、トウヤは手際よく落ちた薪を集めていく。手近な薪を拾って手渡すとありがとう、と笑顔が返ってきた。そうしていると、本当に何処にでもいる少年と大差ない。だが、彼は・・・。
ふ、と頭を昨日の手紙がよぎる。
「・・・ここは、不思議なところだな」
呟きは本当に小さなものだったが、彼には届いたらしい。一瞬、薪をかたしていく手が止まった。
「不思議・・・ですか」
「そう・・・どう言ったら良いのか。周りとは違う空気を感じるような気がする」
「違う空気?」
「ここにいると・・・」
――――自分が、この世界に融けきれない、異質なものだということを、忘れてしまいそうになる。
過去も、罪も。先入観も何もなく、誰かれ分け隔てなく、すべてありのままを受け入れてくれる、ところ。
そんな場所はあるはずがないと思っていたのに。
口をついて告げそうになった言葉を、ネスティはあと一歩で自らの中へ押し込めた。
不自然な箇所で沈黙に落ちたネスティを、トウヤは答え待つように静かに見つめている。
・・・不意に、聞いてみたくなった。
「君は・・・」
「君はどうしてここに留まっている?」
望むなら、何処へでも行け、何にでもなれるチカラを持ちながら。
ここに、留まり続けるその理由は?
ふ、とトウヤが表情を緩めて笑った。
「・・・あの闘いの前に、マグナにも同じような事を聞かれました」
『――――英雄にもなれたのに』――――と。
・・・いらないのだ。
英雄になれる力なんて。
「――――僕が欲しかったのは、ここにやってきてすぐ、何の力もなかった僕を守ってくれた皆を護る力」
そして――――
「・・・帰ってきて欲しい、と言われた場所を。守りたいと思った人が好きなこの世界を、護るための力」
「――――・・・本当は、どうでもいいのかもしれませんよ?」
そう続けて、トウヤは笑った。
いつもと同じ、穏やかな表情で。
「自分が、好きだと思う人たちを、その居場所を守れたら、あとはどうなったとしても、本当は構わないんだとしたら?」
・・・本来、騒がしいのは嫌いなタチだ。
ずっとそう思ってきた。
だけど、
中には、”嫌いじゃない騒がしさ”も、あったと。
最近は少し、そう思えるようになってきた。
だけど
――――・・・早く、離れないと。
夢から覚めないうちに。
「あ、おはよう、ネスティ」
「昨日また遅くまで調べ物してたみたいだな、無理すんなよ」
「朝ごはん、できてますよ」
居間に顔を出した途端、あちらこちらから次々と掛けられる声。それに答えながら、彼は合間を縫ってようやく自分の本題を切り出せた。
「すまない、誰かマグナを見ていないか?」
数人が顔を見合わせて次々に首を振る。
「そういえば朝から見てないですね」
「いつもなら腹減ったとかって出てきてもおかしくない時間なのにな」
「あいつならさっき見かけた」
ボソ、と横合いから口を挟んだのはガゼルだ。
「どこで?」
ひょい、と庭を顎でしゃくって見せる。
「庭にいたぜ」
「ありがとう」
「ネスティ、ご飯は?」
「後でいただくよ」
そう言い残して食堂を後にして、庭に抜ける裏口へと足を向けた。
今は皆食堂のほうに移動してしまっているらしく、廊下ですれ違うものはいない。
ふ、と一つ息をつくと、肩から力が抜けた。
何となく、本当に何の気なく皆の前で息をつめてしまうこの癖がまだ抜けない。・・・だが、ここにいる間はだいぶ収まっているような気がするが。
長年、そう線を引くことでしか、人との距離を測れなかったから。
ここでは、それは不要だ。
不要なんだと、自分自身にすら思わせる何かがあった。
・・・不思議な所だと思う。
裏口から外絵御覗くとちょうど死角になる壁の向こう辺りで人の気配がする。
「――――マグナ?」
呼びかけながら近づいていくと蹲っていた影が不意に立ちあがって振り返った。
「あれ、ネスティ?」
「――――トウヤ?」
振り向いたのは、このフラットの住人の少年だった。巻き割りをしていたらしい手を止め、穏やかな笑顔を向けてくる。
「何か?」
「マグナを庭で見たと聞いたんだが・・・」
「ああ、うん。釣りの道具を貸してくれって言われたから・・・」
「釣り?」
「アルバたちと一緒に。結構前に出て行ったから多分もうすぐ帰ってくると思うけど」
答えながら、トウヤは手際よく落ちた薪を集めていく。手近な薪を拾って手渡すとありがとう、と笑顔が返ってきた。そうしていると、本当に何処にでもいる少年と大差ない。だが、彼は・・・。
ふ、と頭を昨日の手紙がよぎる。
「・・・ここは、不思議なところだな」
呟きは本当に小さなものだったが、彼には届いたらしい。一瞬、薪をかたしていく手が止まった。
「不思議・・・ですか」
「そう・・・どう言ったら良いのか。周りとは違う空気を感じるような気がする」
「違う空気?」
「ここにいると・・・」
――――自分が、この世界に融けきれない、異質なものだということを、忘れてしまいそうになる。
過去も、罪も。先入観も何もなく、誰かれ分け隔てなく、すべてありのままを受け入れてくれる、ところ。
そんな場所はあるはずがないと思っていたのに。
口をついて告げそうになった言葉を、ネスティはあと一歩で自らの中へ押し込めた。
不自然な箇所で沈黙に落ちたネスティを、トウヤは答え待つように静かに見つめている。
・・・不意に、聞いてみたくなった。
「君は・・・」
「君はどうしてここに留まっている?」
望むなら、何処へでも行け、何にでもなれるチカラを持ちながら。
ここに、留まり続けるその理由は?
ふ、とトウヤが表情を緩めて笑った。
「・・・あの闘いの前に、マグナにも同じような事を聞かれました」
『――――英雄にもなれたのに』――――と。
・・・いらないのだ。
英雄になれる力なんて。
「――――僕が欲しかったのは、ここにやってきてすぐ、何の力もなかった僕を守ってくれた皆を護る力」
そして――――
「・・・帰ってきて欲しい、と言われた場所を。守りたいと思った人が好きなこの世界を、護るための力」
「――――・・・本当は、どうでもいいのかもしれませんよ?」
そう続けて、トウヤは笑った。
いつもと同じ、穏やかな表情で。
「自分が、好きだと思う人たちを、その居場所を守れたら、あとはどうなったとしても、本当は構わないんだとしたら?」