オアシス
「兄ちゃん~!!」
静寂を破る明るい声に、はっと我に返らされる。
アルク川から続く裏道を先頭きって走ってきた影がトウヤに体当たりするように飛び込んできた。
「っと、お帰り、アルバ」
「ただいま~! へへ、今日はオイラがスゴイ奴釣ったんだぜ!」
「違うでしょぉ!? 釣り上げたのはエルカとマグナじゃない!」
「なんだよー!オイラがつるした竿に引っ掛かったんだぜ!」
・・・あっという間に騒がしくなってしまった。
呆気にとられているネスティをよそに、トウヤは慣れたものでそれぞれを宥めながら、何事もなかったかのように笑う。
「・・・で、その肝心の魚と、マグナは?」
「もうすぐ来るよ」
「ほら!」
「ふい~、た、ただいま~」
よろよろ、よたりながら残りのメンツ、ご到着。
確かに、マグナの背負った袋から魚の足ひれが楽勝ではみ出しているのが見えた。・・・というか。
大きすぎないか、そのエモノ。
「・・・マグナ」
「ふぇ? ネス? どうしたんだよ、こんな所で」
君を捜していたんだ、という台詞は一応用意されてはいたが、口をついて出たのは別の台詞だった。
「・・・何だそれは」
「へ?」
「何かはみ出しているように見えるんだが・・・」
・・・気のせいでなければ。
その台詞に、ポン、と手を打つと、先程までとは裏腹にすっかり子供気分で上機嫌なマグナは聞きとして戦利品を地に寝かせた。
「じゃじゃじゃ~ん♪」
「――――!!」
まず目についたのは足だ。
・・・ヒレではなく、足だ。しかも男っぽい。というかおっさんっぽい・・・?
そして腹のところに・・・
「・・・・・・トウヤ」
「・・・うん」
「これは、よくいるものなのか」
うーん、と言い淀んで、トウヤはさりげなく視線を明後日へと向けた。
「当たりといえば、当たりかなぁ・・・あ、滅多に釣れない珍しいモノではあるけど」
・・・いま、魚と言わずに[モノ]って。
「アルバの竿に引っ掛かったんだよ。こいつと延々と引っ張り合い! もー疲れたの何のって・・・」
「君はバカか! あれの何処が魚に見えるんだ!!」
「まぁまぁ・・・一応、あれにも使い道があるから・・・」
「え、まさか本当に食べるの?」
意外そうに聞いてくるマグナに、思わずどういう意図で釣ってきたんだ、と聞きたくなった二人だったが。
先に気を取り直したのはトウヤだった。
「エルカ、ごめん。これ“あかなべ”に持っていっておいてくれるかな」
「・・・しょーがないわねぇ・・・次は自分で運んでよ」
ちろ、とトウヤとマグナを見遣ると、獣人の少女はあっという間に魚(モドキ)を元の通り包むと、ひょいと抱えて持っていってしまった。
「どうするんだろう、あれ・・・」
・・・頭が痛くなってきた。
「・・・僕に聞くな」
「子供たちの面倒見てくれて助かったよ」
釣り道具の片付けを手伝いながらトウヤが言った。
「こっちこそ、何か久々に思いっきり遊んだ感じで楽しかったよ。他、何か手伝うことあるかな?」
「特にはない・・・と思うな。ユエルも色々手伝ってくれてたみたいだし」
「そっか・・・あーあ、さすがにお腹空いたな・・・」